第147回
日本語に強いアウトソーシング拠点、大連の研究(後編)
経営コンサルタント 大前 研一氏
2008年9月24日
現在、大連を代表する会社を二つ挙げるとすると、NeusoftとDHC(日本の化粧品会社とは別である)になるだろう。
Neusoftについては前回も簡単に触れた。東北大学のコンピューター学部の教授(現副学長)であった劉積仁氏が作った会社である。東北大学といっても日本の仙台にある大学ではなく、中国東北地方を代表する国立大学である。Neusoftは、もともとは東北大学のある瀋陽に本社を置いていたが、大連にも進出して大成功を収めている。
劉積仁氏は若いころに米NBS(アメリカ連邦標準局)に留学していた。そこで開発に適した環境をつぶさに見てきた。中国から米国に留学した学生は、その学術環境の良さからそのまま帰国しない者も少なくないのだが、彼は帰国して、中国にも米国並み環境を作ろうと尽力した。
折しも、カーオーディオやナビゲーションシステムを作っている日本企業のアルパインが中国でパートナーを探していた。そのときに劉積仁氏とアルパインの沓澤虔太郎社長(当時)が出会ったのである。劉積仁氏はにわか仕込みのプロポーザル(提案書)を手に「我々は資本金1億円くらいの会社を作りたい。ぜひ5000万円出してくれ。自分たちも5000万円出すが、お金はないので汗で出す」と都合のよい訴えをした。
それを承諾したアルパインも大したものだと言えよう。こうして、彼は汗を出して(つまり無報酬で)、大学の教授をやりながら、合弁会社Neusoftを設立したのだ(詳しくは「日中合作―中国No.1ソフト企業誕生の物語」小学館スクウェア、参照)。
こうしてNeusoftは、アルパインからカーオーディオやナビゲーションの地図を作成する仕事を請けることになった。カーナビゲーションは目的地を入力すると、「右に曲がれ」「左に曲がれ」と逐一指示を出してくるが、あの内容はこのNeusoftで手がけていたのである。わたしも2001年に初めてその様子を目の当たりにしたときは驚いたものだ。中国人が日本語でGPSの内容を入力しているのだ。当然、地名もすべて日本語で難なく入力している。
Neusoftはほかにも医療機器であるCTスキャナー、MRIなども手がけている。彼らはコンピューターサイエンスを大学で学んでいるだけあって、コンピューターが得意だ。それで、医療機器も自分たちで開発し、GEなどの4分の1のコストで作ってしまった。その結果、中国のシェアの半分を1年でとってしまったのである。大学発の企業(校弁企業)であるので基礎研究にも強いし、人材も豊富なので、自分たちでゼロからいくらでも作ることができるのが彼らの強みだ。
Neusoftはそれから4~5年して上海の株式市場に上場するまでに成長した。ソフトウエア会社としては中国で最初のことである。いまでは従業員数を見ると1万3000人という大会社で、中国を代表する堂々たるソフトウエア会社だ。金融や通信などの大きなシステムも、政府やいろいろな企業に成り代わって開発している。
また組み込み系ソフトも得意で、こういう仕事もBPOで請け負っている。売上そのものはまだ日本円にして600億円、700億円にすぎないのだが、成長性を見込まれている。時価総額が3000億円と高いのはそのためだ。海外では日本、米国、香港、UAE、ハンガリー、インドに支店を持ち、中国内外で1万5000社向けのソフトウエア開発をやっている。
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