研究開発のスタンスが米国、日本、アジアではまったく異なる
こうして見てくると、米国、日本、そしてアジア企業の“染色体“は結構違うのではないかと思える。それぞれのR&D(研究開発)に対する違いを下の図にまとめてみた。
米国ではベンチャー企業が中心となって新しい技術をもたらす。そして「いい技術を作ってくれた」となると、大企業が買収してくる。だからお金はベンチャーに集まってくる。大企業がそういう長期の開発をやろうとすると、アナリストや株主にたたかれてしまうという要因もそこにはある。新技術はM&Aで買収したほうが株主も喜ぶ。
対して日本は、生産現場と研究開発が一体になっている。そして完成品を作るメーカーと部材メーカーも一体になって「ああでもない、こうでもない」と顔を突き合わせて、形のないものでも「取りあえずやってみようか」と手がけてみる土壌がある。
何よりも日本には、東京都大田区、東大阪、諏訪湖周辺、浜松という、中小企業が密集している4大「中小企業ハイテク部品業の集積地」がある。部品屋さんで集積しているところは世界的に見ても非常に少ない。これが日本の強さの一つだ(これについては次週解説したい)。
アジアは、自分たちではR&Dをほとんどやらない。大企業中心、あるいは大学の研究所で行うか、外国から技術を買ってくる。そして中小企業の集積地のようなものは(台湾の新竹みたいに今や大企業の開発拠点にまでなっているところを除いては)ない。技術を持つ外国企業を呼び込んだ(蘇州、無錫などの)集積地はあるが、人的・ノウハウ的な集積が伴うわけではない。せいぜい「最終部品を作ってジャスト・イン・タイムでお届けする」という感じだ。だから、日本とは意外とバッティングしない。
このことを別の視点から見てみよう。下の図は商品特性とオープン特性のマトリクスだ。上側がインテグラル(総体)なアナログな性質を持つ商品で、下側がモジュール(個別)でデジタルな特性を持つ商品。右側が専用部品を使用するクローズドなもの、左側が標準品を用いるオープンなものだ。
アジアや欧米が強いのは左下のピンク色の部分だ。標準化された部品を組み合わせて作るものだ。そのため事前に「こういう部品を組み合わせて完成品を作ろう」と部品の組み合わせ方のルールを決め、開発や製造はそのルールに従う。ルール策定後に交渉するのは納期と価格と部品の数といったところか。部品も製品番号を言えばそろえられるようなものだ。欧米、台湾のOEMメーカーが得意とするものである。
日本が得意なのは右上の青の部分で、調整しながら製造していく製品だ。調整は設計前だけでなく設計後も多い。設計前は「こういう感じのものを作りたいんだけど」と漠然としたところから始めて、不都合があったら直していくことを繰り返し、完成品まで持っていく。だから日本製品の完成度は高い。
キヤノンやリコーの複写機やプリンターを考えてほしい。実はあの手の製品を全世界で販売するのは難しいことなのだ。
例えばアリゾナから「インクが乾いて印刷できない」と緊急電話が来る。原因は湿度が低く、インクジェットプリンターのノズル(インクの噴射口)が詰まってしまうからだ。また、ルイジアナからは「紙詰まりが起こって困る」と電話が入る。理由はその逆で、湿度が高すぎて、紙がメロメロになってしまうからだ。
キヤノンやリコーは、そういう苦情に対応しながら、どんな気候でもインクの詰まりにくく、紙詰まりの起こりにくい製品を開発してきた。こういうことはやったことのある人間でないと分からないのだが、紙詰まりやインクの目詰まりを解消するのは極めてノウハウ部分の多い難しいことなのだ。
では台湾や中国の複写機、プリンターメーカーはどうか。そういう極端な地域は最初から対象外だ。トラブルの起こりにくい地域のボリュームゾーンに向けて「安くしますからどうぞ買ってください」という売り方である。メーカーの負担は少なくなろうが、極限状態を想定しなければ製造技術は決して向上しない。対して日本企業は、最初からユニバーサルサービスを志向し、きめ細かい努力をしてきた。だからこそこうした「アナログ・インテグラル×クローズド」領域において日本企業の製品は完成度と信頼性が高いのである。
(後編へ続く)
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