第142回
日本の競争力の源泉(前編)
経営コンサルタント 大前 研一氏
2008年8月20日
BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)の台頭や(多少の陰りは見えるものの)依然として強さを見せつける米国経済などを背景にして、「日本はもう駄目だ」と言うエコノミストがいる。浅薄な理解であり言説であるというべきであろう。そこで、不況下にあってもしっかり踏みとどまっている日本産業の姿を見ながら、どのような産業がなぜ高い国際競争力を保っているのか探り、この国の競争力の根元を考えたい。
では、踏みとどまっている日本の実態とはどのようなものなのか。今回は、素材・部材・化学・機械の分野を例にとって検証してみよう。実はこの業界では日本メーカーが高い世界シェアを持っている。というよりもほとんど独占・寡占状態になっているのだ。
なぜ人件費の高い我が国で、このような国際競争力を維持しているのか。その本質はどこにあるのか。また、そのノウハウはほかの業界(例えばサービス産業など)にも応用できるものなのか。ほかの国にはない日本の「力の本質」の中には、業種を超えて学ぶべきことも少なくない。
さて、日本の素材・部材業界は20年ほど前に大きな不況に陥っていた。いわゆる繊維不況である。当時のその手の会社は、世界のトップクラス企業に比べて圧倒的に規模が小さかった。外から見ていると「これは倒産する道しか残されていない」と思われていたものだ。実際、滅びた会社も数多くある。しかし世界の巨大ライバル企業と直接競うことはしないで、得意分野をシフトすることで生き残ったところも少なくない。
「得意分野のシフト」は、特にハイテク分野で顕著だった。日本が得意とする自動車やエレクトロニクスの素材などは、価格競争に巻き込まれやすい普及品(コモディティー)を避けて付加価値の高い方に事業構造を変えていったのである。リストラやコスト切り詰めといった不況の克服だけでなく、仕事の土壌を巧みにずらしながら、生き残る道を探し当てたのだ。
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