人は「グッドライフ」を求めている
わたしは過去の当連載で、何度かコソボ問題を取り上げてきた。セルビア(旧ユーゴスラビア)からは、多くの地域が紛争を経て独立した。コソボも長い間紛争が続いていたが、先般ついに独立を宣言したのである。その後はコソボだけでなく、セルビアまでもがEUへ加盟する方向で動き出した。
この展開は多くの人にとって、予想を裏切る結果だっただろう。しかし、何を隠そう、これまでこの連載の第110回「コソボに見る21世紀の国家の形」でも取り上げたように、わたしの予想したとおりの展開になったわけだ。
なぜわたしが、多くの人の予想できなかったことが分かるのか。種を明かせば単純なことだ。「その人の立場になって考えること」、これだけである。
セルビアの人にとっても「EUに加盟して、世界中を自由に旅する権利を得る」ことが魅力的なのは当たり前のことだ。EUに加盟すれば、これまで制限を受けていた多くのことから解放される。それが分かれば「EUに加盟したいな。そのためならコソボはくれてやってもいい」と思うのは、自然な流れであろう。火中の当事者たちには見えないもの、それは人々が民族主義を主張しながら、実は別なモノを求めている、ということである。
EU加盟にはそういう魅力、というか魔力がある。今回新たに北キプロスが歩み寄りを見せているのは、そのEUの魔力に引かれたからだ。宗主国トルコの顔色を見ているだけでは自分たちの幸せは近づいてこないのだ。
人間は民族紛争、宗教戦争を繰り返しているが、根本では「幸せになりたい」「グッドライフを得たい」ということが共通の目的である。これはわたしの20年ほど前(1990年)の著作「ボーダレス・ワールド」でも解説している持論だ。
紛争の原因とされる民族や宗教は言い訳のようなものにすぎない。グッドライフが手に入る状況が目の前に来れば、誰でも紛争などやめてしまう。現在EU、そしてセルビアやコソボ、キプロスで起こったことを見れば、つくづくそう思う。そうした大きな包容力を持った人類史上初めての「コンセプト国家=EU」がとにもかくにも機能し始めた、ということが21世紀で最も特筆すべき国家観の変化である。
昨今は日本の中にも、ともすれば隣国をけなしたりあざけったりといった19世紀的国民国家の概念から抜け出せないネチズンが少なくないが、実に嘆かわしいことである。「人生の目的はグッドライフ」と実感できれば、日本も周辺諸国と融和できるのではなかろうか。
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