第137回
「アジアで最も豊かな国」から転落した日本
経営コンサルタント 大前 研一氏
2008年7月16日
IMF(国際通貨基金)がまとめた調査によると、2007年のシンガポールの一人あたりのGDP(国内総生産)が日本を抜くことが明らかになった。シンガポールは3万5000ドルを超えたのに対して、日本は3万4300ドルにとどまっている。これまで半世紀にわたってアジアで1位をキープしていた我が日本だが、ついに2位に転落してしまったわけだ。
世界で見れば1994年には一人あたりGDPで日本は世界一であったが、一昨年に17位に、そしてついに昨年の実績で22位に転落してしまった。もちろん為替の影響もあるが、日本の国民所得、すなわち国民のつくる付加価値の総和がこのところほとんど増加していないのだから、この数字は実態を表しているモノと見なくてはいけない。
日本では、このことはほとんどニュースにもなっていないし、危機感がまるでない。政府の方も都合が悪いのであえて危機感をあおることはしたくないのだろう。しかしシンガポールに抜かれたということはやはり画期的なことなのだ。
日本人の中には、アジアでも小さな国、例えば天然ガスを産出するブルネイにはとっくの昔に抜かれていたよ、と言う人もいるし、まだまだ日本はGDPの総額では米国に次いで世界第2位の経済大国だと胸を張る人もいるだろう。しかし、今のペースでいけば日本がGDP総額で中国に抜かれるのは3年後(2010年の数値)である。人民元がどこまで強くなるかによっては2年後、ということもある。総額でもアジア・チャンピオンの座を明け渡すのである。危機感がなさ過ぎると思わないだろうか?
国土が狭い、地下資源に乏しいという点では、シンガポールも日本も同じだ。にもかかわらず、どうしてこのような彼我の差が出てしまったのか。理由は明白だ。シンガポールでは積極的に外資、外国人の誘致策を展開し、世界経済を味方に付けて経済の活性化を図ってきた。それに対して我が日本は、市場開放が後手に回ったことから、経済の成長に大きな差が出てしまったのだ。世界経済の利用の仕方で差が出た、という点をよく認識しなくてはいけない。
税率で見ても、法人税、所得税などすべてにわたって高い日本と低く抑えてきたシンガポールでは大きな違いがある。税率を抑えることで外国からお金と人が集まってくる。まさにシンガポールは「貸席経済」を地で行っている国なのである。世界のお金、世界の企業、世界の情報、世界の人を集めて繁栄してきた。わたしがしばしば使う言葉に「ボーダーレス経済」があるが、シンガポールはまさにその申し子のような国なのだ。
実はシンガポールにはわたしも深いかかわりを持っている。何を隠そう、1970年代後半に国家アドバイザーとしてシンガポールに意見する立場にあったのだ。当時は日本の一人あたりのGDPが1万ドルになった時期である。シンガポールはまだ2000ドルで、5倍以上の開きがあったのを記憶している。それが急成長を遂げて、いまや日本を抜いてしまったのだ。
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