第129回
日本を襲う官製不況の嵐(1)
経営コンサルタント 大前 研一氏
2008年5月21日
日本が今も不況に向かって「着実に」歩を進めていることは、衆目の一致するところだろう。この不況の原因として、米国のサブプライムローン問題をやり玉に挙げるエコノミストや政府筋関係者は多いが、それは明らかに間違いである。まったく無関係であるとは言うまいが、少なくともサブプライム問題が起こる以前、昨年の8月くらいから日本の景気が下降していたのは否めない事実なのだから。
有り体に言おう。日本が不況に向かう真の道筋・原因をつくったのは、サブプライムローン問題ではない。役所・官僚・政治家である。つまりこの不況は「官製不況」と呼ぶのがふさわしい。この言葉は今から15年ほど前に、金融不況をつくりだしたのは当時の大蔵省を中心とした官僚たちであった、という記述の中でわたしが使い始めた言葉だ(「新大前研一レポート」(講談社、1993年)のp.56)。
日本の現実で最も深刻なのは、今回の円高100円である。これは、日本の官製不況に対する“ポツダム宣言”だと言っていい。それを無視し、国民生活者や世界をまだだませると思って今の調子でやり続ければ、市場暴落、金融破綻という“原爆”につながる可能性さえある。
日本経済が世界の経済常識からどれくらいかけ離れたものになっているかは、先に挙げた本や、「利用者の立場に立った証券・金融市場改革」(大前・丸山著、プレジデント社、1991年)などのなかでさまざまな面から検証しているので、ここでは多言を要しないと思う。いずれにしても、政策当局者がこれを正確に理解していないことの方が問題は大きいのだ。以下、日本の現実を整理して見ていこう。
これほど深刻な日本の現実
「官製不況」指摘から15年後の今日、事ここに及んでもなお、政府はまだ不況に向かっていることを認めてはいない。遺憾なことではあるが、これもまた「いつものこと」である。1993~1994年にかけて不況に突入していたときもそうだった。はじめのうちは政府も「不況じゃないよ」と否定をしていた。手前味噌になるが、当時のわたしは、「不動産不況で100くらいの銀行がつぶれ、株も1万2000円、下手すると9000円に下落、東京の地下も10分の1になる、不良債権は100兆円を下らない」と月刊誌などで繰り返し指摘していたのである。
にもかかわらずである。当時の大蔵省は、自分たちで軟着陸させられると豪語していたのだ。不況の程度を軽く見ていたのだろう。大蔵大臣であった武村正義氏は、不良債権の額を13兆円程度と発表していたくらいだから。もっとも、その13兆円は後の政府発表では27兆円になり、半年くらい前には日銀総裁だった福井氏が、国民が不良債権に払った額は300兆円だったと言っている。
わたしの計算では、300兆円というのは最悪のシナリオのケースだった。計算の仕方にもよるが、わたしは150兆円、思いきり大きく見積もっても280兆円と計算していた。福井氏が言った300兆円という額はそれを超えている。福井元日銀総裁の計算根拠は分からないが、わたしの計算根拠は「日本の真実」(小学館、2004年)のp.237などに掲載している。
いずれにせよ、その膨大なお金を支払ったのは、国民である。国民が「金利をもらわない」という世にもまれなやり方と、そして税金で支払ったわけだ。このような芸当ができるのも、日本人が世界的にも珍しいほど、おとなしい国民だからということにつきる。0.1%という金利でも、日本から逃げずにじっと我慢していたのが日本人なのだ。
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