バックナンバー一覧▼

「産業突然死」の時代の人生論

中国を再定義すべき時

 これまでの中国経済は加工貿易で成り立っていた。しかし、人民元が高くなると限界がくる。もし1ドルが6元、あるいは5元まで上昇したらどうなるか。気概に欠ける経営者は事業を手放す可能性も高い。日本円はドルベグを外して35年間で4倍になった。ドイツマルクも円と同じようなペースで強くなったが、ドイツ企業は競争力を維持した。同じことを中国の人民元に当てはめれば1ドル=2元の世界である。これでも輸出を続けられるか、必死でイノベーションをやるか? というのが、中国企業が今問われている「真剣度」である。

 わたしが中国で講演をするときには「君たちにはまだまだ日本から学ぶことがある。それは為替が4倍になってもまだ競争力を維持するノウハウだ」というと皆が驚嘆する。そしてほとんどの企業家が、「自分たちにはもっと楽な金もうけの方法が山のようにある。日本からノウハウとして学びたいのは不動産バブル崩壊でつぶれなかった企業の経験だ」と言う。これが中国という国の企業家の本音に近いのだろう。

 極端な元高下で事業を継続するのであれば、イノベーションで価格を取りにいかなくてはならないし、生産性向上にも尽力しなくてはいけない。給料もこれまでは賃上げしてきたが、リストラや賃下げするように従業員と交渉しなくてはいけなくなる。労働者ともめるのは明らかだ。中国政府は当然、「労働者の味方」を標榜するので頼りにならない。経営者から見たら、「もう十分に財産を蓄えたし、苦労するのはいやだ。事業をやめてしまおう。フロリダの土地でも買って、悠々自適に過ごすのがいい」といったところだろう。

 そうやって加工貿易を徐々にやめていったとき、中国はこれまでどの国も体験したことのない急激な製造立国から消費大国への転換を迫られる。日本でも前川リポートなどで念仏としては唱えたが実現はしていない。米国のようなサービス産業と消費経済で成長が続けられるのか、中国には未経験の領域である。結局、経済界と政治家との認識の乖離が経済や労働に関するちぐはぐな政策となって現れ、外資系企業にとって、世界の生産基地としてのパラダイスでなくなることだけは確実であろう。

 しかし、ベトナムやトルコなどは広東省と同じくらいの人口しかないので、中国に取って代わる経済規模はない。結局、中国に代わるものは中国しかないということで、世界はそれ程廉価ではない中国製の商品を買うことになる。デフレ要因としての「特売」中国が終わりを告げ、これからは普通の中国とつきあっていかなくてはならない。

 巨大市場としての中国市場をにらみながら、各企業はしばらくの間、この国の立ち位置を再定義することになる。安易な生産が少なくなる部分、台湾や韓国、そして日本企業にとっては、中国をいかに「内部化したか」で勝負することになる。つまり中国市場における真の競争は中国企業との競争ではなく、東アジアのしたたかな製造業のベテラン同士の戦いになるのではないだろうか、というのがわたしの予想である。

■コラム中の図表は作成元であるBBT総合研究所(BBT総研)の許諾を得て掲載しております
■図表、文章等の無断転載を禁じます
■コラム中の図表及び記載されている各種データは、BBT総研が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、BBT総研がそれらのデータの正確性、完全性を保証するものではありません
■コラム中に掲載された見解、予測等は資料作成時点の判断であり、今後予告なしに変更されることがあります
■【図表・データに関する問合せ】 BBT総合研究所, e-mail: bbtri@bbt757.com

あなたのご意見をコメントやトラックバックでお寄せください

SAFETY JAPAN メール

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。