第121回
ロシアも飲み込むEUの未来
経営コンサルタント 大前 研一氏
2008年3月26日
当連載の110回、「コソボに見る21世紀の国家の形」で、わたしはコソボ問題について述べた。コソボはバルカン半島の国家・セルビアの一自治区であり、セルビアからの独立問題で揺れている。当該コラムの執筆は今年(2008年)の1月だが、それから3カ月近くが経過した現在、前にも増して独立の動きが活発になってきた。
契機となったのは今年2月17日、コソボの一方的な独立宣言である。米国はいち早く支持を表明、EU各国でもドイツなど有力な30カ国以上が支持を表明している。しかし、セルビア国内ではまだ独立に反対しているため、EUはセルビアに内政支援の拡充や経済的な関係強化を提案している。つまりはEU加盟をカードにしてセルビア民族派の譲歩を求めたという構図である。
セルビアでは、独立に反対しているタカ派のコシュトニツァ首相が辞任を表明した。一方、大統領の座にあるダディッチ氏は、コソボ独立を容認している。ダディッチ大統領は先日の選挙で国民から支持を得ているので、首相は「これではやっていられない」という気持ちになったのだろう。
では、肝心のセルビア国民はどちらを向いているのだろうか。
もちろん、口先では反対している。複雑な民族・宗教問題を抱えるロシアもコソボの独立に反対で、セルビアに援助を約束するなどEUに入らなくてもやっていける、とプロパガンダを張っている。しかし「EU加盟」とそれに続くシェンゲン協定(ビサ無し通行の自由化)いうエサをちらつかされてはセルビア人の気持ちも揺れる。これはわたしの想像だが、セルビア国民の半数以上は心の中でEU加盟を望んでいる、すなわち「コソボ独立やむなし」と考えているはずだ。いわば面従腹背ならぬ「面背腹従」である。
ダディッチ大統領が当選したのも、そういう国民の微妙な心のひだを読んだからこそのことだ。タカ派の首相が「はい、さよなら」と辞任を口にするのも、当然の成り行きだ。
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