第10回
新しい時代は「構想力」で乗り切れ!
経営コンサルタント 大前 研一氏
2005年9月30日
ウェルチ型のリーダーシップは今後も研究に値する
いま日本で必要とされているのは、ジャック・ウェルチ型のリーダーだ。現場で問題を解決できる「仕組み」をつくり、問題解決の課程で実際に様々な問題を処理する能力のある次世代のリーダーが次々と生まれてくるようにし向ける「プロデューサー」型のマネジャーである。また、現場に問題解決の権限を付与することで、企業の問題点やリスクが内在化することを防ぎ、自分自身は大きな問題に集中できるわけだ。
ジャック・ウェルチ元GE会長は、アジテーターとしても超一流だった
(写真提供:時事通信社。なお同写真およびキャプションについて、時事通信の承諾なしに複製、改変、翻訳、転載、蓄積、頒布、販売、出版、放送、送信などを行うことは禁じられています)
プロデューサーの最も大きな役割は、時に組織を大きく揺さぶることだ。ジャック・ウェルチはかつてGE(ゼネラル・エレクトリック)で「全ての動詞に「e」を付けろ!」と大号令をかけた。販売ならe販売、設計ならe設計という具合にすべての企業活動をe化できないかどうかチェックせよというのが趣旨だ。
さらに、「アンチ事業部」をつくれという激烈な号令がかかった。社内の既存の事業部をつぶすつもりで、別の事業部をつくれというのである。アンチ事業部をつくる課程では、CRM、ERP、SCMなどの概念を導入し、徹底的なIT化を図る。「他社につぶされるくらいなら、自社のe化された新事業部につぶされたほうがまし」というわけだ。自社の既存事業をつぶすべく戦略を磨き上げていく過程で、市場での優位を獲得していく目論見である。
私が「チャイナ・インパクト」(講談社)を上程したころ日本に来たときに「Ken, what’s new?」(ケン、何か目新しいことはないか?)といつものように言うから「中国が中央集権から6つくらいの地域国家群になってきた」と言ったら、後継者に既に内定していたジェフ・イメルトに向かって「直ちにわが社がそれぞれの6つの地域でちゃんと基盤ができているか、取りこぼしている地域がないか、調査してみよう!」とテーマを振るアクションの早さである。その次の年のフロリダにおける経営幹部の年次大会では、このテーマで各事業部からの報告が求められたらしい。この時は、GEの経営幹部から私のところに「その6つはなんだ?」とか「もう少し詳しく説明してくれ」という問い合わせが殺到した。ウェルチは知的好奇心が強く、また、企業の大きな転機、チャンスや危機に関しては格別のアンテナを持っていたことを示している。
手前味噌だが、私がいたマッキンゼーはウェルチ型リーダーシップを実践している典型的な組織である。世界中で数百の問題解決に卓越したヒーローがいて、その中から出てきた人が選挙によってディレクターになり、さらにディレクターの選挙によって3分の2以上の得票で社長が決まる。投票用紙は外部の監査事務所に一任するという徹底ぶりだ。そうした課程で生まれた社長は、手取り足取り現場に指示を与えることなど求められていない。大枠の号令をかけるだけであり、大半の問題は各組織が自律的に解決していく。ただし、大枠の号令自体は、多くの優れた社員に感銘と納得を与え、的を射たものでなければならない。
ウェルチ型のリーダーは今後もさらなる研究に値するし、実行する会社が増えてほしいものだ。
一度すべてを破壊して、新しいものをつくり上げよう
私はこれまで様々なことにチャレンジしてきたが、いま自分が果たすべき役割は「破壊者」であることを実感している。エスタブリッシュメントを壊してまた新しいものをつくるのが、私のやるべき仕事だ。時代は変わっているのだから、すべての分野で新しいものをつくる必要がある。
1985年以降の新しい世界では、ある意味で「すべて更地にしてつくり直した方が楽」という面もある。
例えばGoogleは、マイクロソフトが焦るくらい動きが速い。1998年に誕生してまだ7年目の企業だから動きが早いのは当たり前、と言う人がいるかもしれないが、既に時価総額が9兆円を超え、社員も4000人を超えている。主力のネット検索エンジン事業でも競争が激化しているから、本来なら守りに回ってもおかしくない。しかし、Googleは攻撃的であり、新しいアイデアでもベーター版として次々に市場に送り出している。
15年前のNetscapeとのWebブラウザ対決では、マイクロソフトはInternet Explorerを開発してすぐに追い付いた。ジャストシステムの一太郎との標準ワープロソフト対決についても同様だ。その意味では、マイクロソフトは他の企業よりもはるかに成長が速い“恐怖の巨人”と言える。だから、私は「ゴジラ型企業」と呼んでいる。
しかし、Googleはマイクロソフトの強みと恐さを嫌というほど分かっているので、マイクロソフトのDNAをじっくりと研究して、法人向け、PC内の検索、地図・映像検索など、次々と新しい商品とサービスをマイクロソフトを上回るスピードで出している。これは典型的な研究者主導型ベンチャー企業だったNetscapeのときにはなかったことだ。マイクロソフトもこれだけスピーディーに動くGoogleに対しては、攻めあぐんでいるようだ。
グーグルの日本での顔、リチャード・チェン
グーグルインターナショナルビジネスプロダクトマネージャー
私はGoogleのような“破壊者”をこそ応援したい。私のビジネススクールでも「一度すべてを破壊しろ」と教えている。屋台骨も何もかもなくなった野原で、新しいものを裸一貫で構築していく力をつける。構築する力、見えないものを見る力、それを構想して事業に持ち上げる力……こうした「構想力」を生徒に身につけてもらうのが私の役割だと思っている。
21世紀の事業は、構想力がないと、その形が見えてこない。例えば、ラリー・ページとともに共同でGoogleを創業したセルゲイ・ブリンの話を、創業当時に理解できた人間は数人しかいなかったはずだ。現にGoogleの開発部門のゲートキーパーは研究者ではない。創業時、まだ社員が20人くらいしかいなかった時にスタンフォードを卒業しようとしていたマリッサ・メイヤー(いま30歳)である。彼女がいまだに全ての開発案件の採否を判断してトップに上げる、加速する、ということをやっている。組織ではなく個人技でやっているのだ。この彼女の技量は稀有なものであるが、それだけに固定概念を打ち破るとんでもないものも前面に押し出される。今や大組織と化したマイクロソフトの苦手なやり方である。
創業者と同じDNAを持っていれば、それだけで頭の中に同じ映像が映るのだ。そこから5時間も話せば、もう壮大で具体的な事業計画を共有できるだろう。理解できない大多数の人は、たとえ隣で全ての話を聞いていたとしても、チンプンカンプンに違いない。
逆に言えば、少数しか理解できないコンセプトしか、現代の経済社会では事業にならなくなった。それは、今の事業展開はワールドワイドに同時に展開するのが普通であり、お金についても単なる銀行融資、直接金融の世界を超え、一定の資本を元手に10倍以上のカネを動かすレバレッジを使うのが当たり前であり、しかも実物経済、金融経済、サイバー社会が渾然一体となった競技場で戦っていかねばならないからだ。それらすべての方向性を直感的に見通せないと、事業の概要、ビジョンすら理解できないだろう。これらのことが分かる人と分からない人の差はあまりに大きく、容易に埋めることはできない。
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