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書評

発禁処分が証明する本書の信頼性

 こうやって紹介していくと、本当にきりがない。2段組・全404ページというぶ厚い本書には、このような事例がぎっしりと詰まっている。

 おそらく、本書を読んだ人の感想は、その人が中国に好意を持っているか、危惧(きぐ)を抱いているかで分かれるだろう。

 中国に好意を持っているならば、「本書に収められた事例は、発展を遂げつつある中国のごく一部分であり、そればかりを拡大して中国という国を判断するのは不公正だ」と感じるはずだ。一方、中国に危機感や恐怖感を感じている人は「やはり中国は人権無視の混沌(こんとん)が渦巻いている。こんな国が世界的な大国として振る舞いだしたら大変なことになる」と思うのではないだろうか。

 著者は、インタビュー相手を安心させ、本音を引き出すためだろう、本書に収められたインタビューを、メモも録音もなしに行ったとしている。そのことから、疑いを抱く人もいるだろう。「果たしてこれらのインタビューは真実か。著者によるねつ造はまぎれ込んでいないか。ねつ造と言わないまでも、著者の無意識が記憶を変形して、悲惨さを誇張する結果となっていないか」と。

 本書の底本は、中国において発禁処分を受けている。わたしはこの事実が、本書の信憑性(しんぴょうせい)に一定の保証を与えていると考える。

 中国政府は、出版物を発禁処分にすることにより、情報の流通を阻止することができる。その一方で、「出版の自由を制限する国」という評価を海外から受けるというリスクを抱えることになる。

 本書の内容が、中国の実態に即したものではない場合、発禁の理由は「虚偽を世間に流布した」というものになる。しかし、現在の中国にはある程度の出版の自由が確保されており、インターネットもそれなりに普及している。「虚偽の出版」に対しては、政府が動かなくとも民間からの反発が起きることが予想される。すると、発禁処分のメリットに対するリスクが相対的に大きくなる。

 一方、本書の内容が、中国の実態を暴露したものであるとするなら、「上に政策あれば下に対策あり」とばかりに、民間はむしろ本書の流通に加担するだろう。その内容が国内外に知られたくないものであればあるほど、中国政府にとって発禁処分のメリットは大きくなり、リスクは受容範囲内ということになる。

 中国国内で、本書の海賊版が複数流通しているということも、本書の信頼性を別の方向から裏打ちしているといっていいだろう。海賊版は、第三者が純粋に利益のために出版する。「売れない」と判断された本の海賊版を出す者はいない。

 つまり、中国の人々は本書を読みたがっているのだ。海賊版の入手という危険を冒してまで、虚偽を読みたがる者はいない。明らかに本書は、人民日報や中央電視台といった官制メディアが伝えない、しかし、中国の人々が知りたいと思っている事実をまとめているのである。

 メモ・録音なしの取材も、わたしの過去の経験から言えば、インタビュー直後に原稿を起こせば、100%記憶に頼ったとしても、まず間違いのない内容の原稿をまとめることができる。「メモ・録音なし」ということだけをもって、「著者の無意識が記憶を変形して、悲惨さを誇張する結果となっていないか」と非難することはできないだろう。

 むしろわたしは、おそらくは散漫に話題が拡散することも多かったであろう実際のインタビューから、話し手の意志や状況が的確に伝わる、かくも力強いインタビューにまとめたことに素直に賛辞を送りたい。著者の筆力は大したものである。

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