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書評

企業と地方自治体の準備は進んでいるのか

 今回の2冊を読み終えて危惧(きぐ)するのは、はたして企業と地方自治体のパンデミックに対する備えはどれほど進んでいるのかということである。

 国レベルでの対策は、感染症法と検疫法の改正に見るように決して十分ではないものの、動き出している。だが、「H5N1」が示すように、国の対策だけですべてがうまくいくわけではない。厚生労働省の新型インフルエンザ対策行動計画(平成19年10月改訂)は、指針を出しているだけで具体的な対策を地方自治体に投げてしまっている。従って、現状のままで、もしも新型インフルエンザが来襲したならば、住んでいる地域の地方自治体がどれぐらいの事前準備を進めているかが、あなたの生死にかかわってくることになる。

 わたしが取材の過程で聞いた範囲では、地方自治体の取り組みにはかなりの格差が存在する。品川区のように先進的な取り組みをしている自治体があるが、まだ例外的だ。

 わたしは自分が住む市の市役所に対策を問い合わせてみたが、今年の春になってやっと連絡会議を発足させて、これから担当者の勉強会を行うということだった。その時に市の担当者から「市役所だけではなく、保健所や県庁などに対策を問い合わせてくれ」と言われた。どうやら担当者レベルの危機感はあるのだが、いまだに危険性をきちんと認識していない行政担当者がいて、なかなか対策が進んでいないらしいのだ。

 本欄を読んだならば、是非とも自分の住む地域の役場、保健所、議員、首長などに「新型インフルエンザ対策はどうなっているのか」と問い合わせを入れてもらいたい。どんな組織も、住民からの問い合わせが重なれば腰を上げざるを得なくなる。新型インフルエンザ対策に向けて、地方自治体を動かすには住民の声、組織の外からの圧力が必要なようだ。

 企業の準備はなかなか表からは見えないのだが、少なくとも大企業に関してはそれなりに進んでいるようだ。しかし、問題は中企業、小企業、そして個人事業者の対策である。わたしの知人に中堅商社の総務課長がいるが、まだまったく準備ができていないと嘆いていた。彼が勤務しているのは売上高は1000億円超、専門分野では名の通った会社である。そんな企業でも、まだ事前のパンデミック対策は十分とは言えない。

 企業活動がなければ経済は成り立たない。そして通勤電車を初めとした、多くの人が狭い空間で一定時間を過ごす交通機関が感染拡大を起こすことは明らかである。少しでも多くの企業が、パンデミック時の行動計画を作成し、社員の出勤を抑制して在宅勤務でビジネスを回せるようにしなければ、感染拡大は防げないのである。ビジネスには、パーソン・トゥ・パーソンの交渉が付きものではあるけれど、パンデミック拡大の抑止には、「いかに人が直接面会しないでも済むようにするか」という視点が欠かせない。

 これはかなり難しい問題だ。力のある企業が、パンデミック時には下請けの従業員を、外出する用事に使うというような形で、しわ寄せを弱者に持っていく可能性もあるからだ。

 「H5N1」で第1号の患者を、「多少の事は気合いで乗り切る」個人経営者としていることは示唆的である。彼のような個人経営者にまで新型インフルエンザに対する知識を普及させ、事前の対策を取ってもらわなくてはパンデミックを乗り切ることはできないということを意味しているからだ。日本経済は大企業から個人企業に至るまでの大小の企業がさまざまな取引を行うことで成立している。パンデミック後に大企業だけが生き残ってもダメなのである。

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