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書評

松浦 晋也氏
2008年5月2日

「H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス 日本上陸のシナリオ」

「H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス 日本上陸のシナリオ」

岡田晴恵著
ダイヤモンド社
2007年9月発行
1680円(税込み)

「パンデミック・フルー 新型インフルエンザ Xデーハンドブック」

「パンデミック・フルー 新型インフルエンザ Xデーハンドブック」

岡田晴恵著
講談社
2006年10月発行
1050円(税込み)

 このところ立て続けに新型インフルエンザ関連本を本欄で取り上げてきた。それだけこの問題が重要だと考えたからである。

 新型インフルエンザの問題は、人間が過去に経験したこともない、従ってどんなものかを想像する手がかりもない新しい災厄に備えることがいかに難しいかを示している。起きていないから「絶対来る」とは断言できない。最新の科学を駆使して、災厄の正体を探っていっても、すぐにすべてが理解できるわけでもないし、「絶対に来ます」と言い切れるようになるわけでもない。

 それでも、災厄の接近に気が付いた者は行動するしかない。来てしまってからでは遅いのだ。来る前に可能な限りの準備をすることが犠牲を減らすことになると判断し、声の限りに世間に呼びかけることになる。

 しかし、過去に経験したことがなく、来てもいない災厄の到来を声高に警告する者は、声の調子の高さの故に忌避されることになる。誰だって今の生活が大事だ。大事な生活を破壊する災厄がやってくるなどという話は聞きたくもない。ましてや災厄が、「来るかもしれないし来ないかも知れないもの」ならばなおさらだ。

 「どうせ来ないだろ。なにバカ言っているんだ」ということになる。そのうちに「あいつは狼少年だ」「あいつのいうことは信用するな」ということにすらなり得る。

 いまだ存在しない脅威について社会に向けて警告を発するということは、実に報われることのない行為だ。警告もむなしく被害が発生しても「わたしの言うとおりだった」と勝ち誇ることはできない。むしろ被害を食い止められなかった責任感にさいなまれることになるだろう。

 警告が一定の効果を発揮し、災厄を回避することに成功すれば、事情を知らない者から「ほーら、やっぱり奴の言う災厄など来なかったではないか」と非難されることになる。最悪の事態を避けられたという自己満足と共に世間からの非難に耐えるしかない。

 今回取り上げる2冊の著者である岡田氏は、新型インフルエンザに関して、困難、かつどちらに転んでも報われない、そんな警告者としての道を選んだように思われる。国立感染症研究所の研究員として最新の情報に触れることができることを利用し、精力的に新型インフルエンザの脅威を訴えてきた。2006年以降に限っても、共著も含め7冊の著書を出版し、精力的に活動を続けている。その中でも今回取り上げるのは、異色の本である。

 「H5N1」は、解説書ではなく小説だ。もしも十分な対策がないままに新型インフルエンザの世界的大流行(パンデミック)が発生すると日本ではどのような状況が起きるかをシミュレートし、読者の前に提示する。

 一方「パンデミック・フルー」は、パンデミック発生時に家庭でできる対策をまとめた解説書だ。前々回紹介した「H5N1型ウイルス襲来」(角川SSC新書)と内容はかなり重なる。が、こちらは、刺激的な表紙とイラスト、さらには本文にゴチック体フォントを配するなど、あたかも読者をパニックに駆り立てるかのような刺激的な紙面作りがされている。

 両書から感じられるのは著者の焦燥だ。プロの小説家ではない研究者が小説を書いてまで訴えたいことがある、見出しゴチック体フォント、本文明朝体フォントという通常の紙面構成ではなく、太い強調字体をどぎついまでに使ってまでも訴えたいことがある ―― 紙面からはそういう気持ちが伝わってくる。

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