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書評

もはや不作為は許されない

 おそらくは読者をパニックに陥れないための配慮として、「H5N1型ウイルス襲来」では細かく説明されていなかった事柄も、「新型インフルエンザH5N1」は容赦なく、かつ冷静に解説していく。

「インフルエンザは、地球最大規模の人獣共通感染症である。その宿主域は、自然宿主である渡り鳥のカモを中心に、野鳥、クジラ、アザラシ、ウマ、ブタ、ヒトなどの広い範囲に及ぶ。インフルエンザウイルスの宿主となるさまざまな野生動物をコントロールすることは困難であり、インフルエンザの根絶は不可能である」(「新型インフルエンザH5N1」p.86)。

「鳥のH5N1型インフルエンザウイルスから新型インフルエンザが発生した場合には、HAの塩基性アミノ酸が連続した開裂部位の構造が、アルギニン一つのみを残して、弱毒型のものに変化する(塩基性アミノ酸の連続構造が脱落して弱毒型の構造に戻る)可能性は非常に低い。したがって、H5型の新型インフルエンザウイルスが出現した場合には、現在の鳥型ウイルスと同様に、全身感染を起こす性質を保持する可能性が非常に高いのである。
                (中略)
全身感染をおこす性質に関しては、新型になっても引きずる可能性が高く、弱毒化して局所感染になるという考えには科学的根拠がないことを、おわかりいただけるだろう」(同pp.88〜89)。

 その筆致はワクチンやタミフルのような抗ウイルス剤の効果、さらには政府の政策にまで及ぶ。p.97からの「不作為は許されない」という短い節には、動きの鈍い日本政府に対する、頭を締め付けられるような焦りが透けて見えてくる。 「どのように判断しようとも、あとから批判を受けることは覚悟しておかなければならないだろう。しかし、これまで何度も繰り返してきた不作為は、新型インフルエンザに関しては決して犯してはならないことを、肝に銘じておく必要がある」(同書p.97)。

 それでもやるべきことをやらねばならない、可能な限りの準備を、可能な限り迅速に行わなくてはならないと著者らは訴えている。

 今回の2冊を読むまで、わたしも鳥インフルエンザに対して、どこか遠い世界の出来事ぐらいの認識しか持っていなかった。今回ほど、この書評欄を担当していることを、幸せに思ったことはない。少なくともわたしは今からパンデミックに向けた準備を始めることができるし、「さあ準備を始めよう」と、読者である皆さんも含めた周囲に呼びかけることができる。

 新型インフルエンザはただの風邪ではない。以前本欄でも取り上げた新型肺炎(SARS)どころではない危険性を秘めている。それはひとたび世界的な流行になれば第二次世界大戦ほどの死者がでるであろう、「いまそこにある危機」だ。

 それにしても‥‥この原稿を書くにあたって厚生労働省の「新型インフルエンザ対策行動計画」を読み通したが、随所に見られる見通しの甘さをどうしたらいいのだろうか。

 今回の2冊を、福田康夫首相と自分の地元の議員の事務所に、手紙とともに送付するべきか――わたしは真剣にそう考えている。

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