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書評

松浦 晋也氏
2008年2月21日

「H5N1型ウイルス襲来」

「H5N1型ウイルス襲来」

岡田晴恵著
角川SSC新書
角川SSコミュニケーションズ
2007年11月発行
756円(税込み)

「新型インフルエンザH5N1」

「新型インフルエンザH5N1」

岡田晴恵・田代眞人著
岩波科学ライブラリー
岩波書店
2007年12月発行
1260円(税込み)

 インフルエンザを「高い熱が出る風邪の一種」と思っている人は多いだろう。「確かにかかると大変だ。数日間は高熱に呻吟(しんぎん)することになるし、体の節々が痛くてたまらなくなる。が、命にかかわるような病気ではない。毎年冬になると流行するが、運が悪ければかかる程度の病気だろう。春になればいつのまにか消えているものだ」―― そんな風に思っているのではないか。

 そもそもインフルエンザワクチンは任意接種だし、効かないという話だってあるではないか。身近にもワクチン接種を受けたのにインフルエンザにかかった人がいるという人も少なからずいるはずである。

 ここ数年、「鳥インフルエンザ」という言葉がメディアをにぎわせている。鳥インフルエンザというからには、鳥がかかるインフルエンザだろうが、なぜ、鳥のインフルエンザに、あれほど大騒ぎをするのだろうか。鳥がかかる風邪の一種ではないのか。

 日本では2004年と2007年に鶏舎の鶏が大量死したことから鳥インフルエンザウイルスの侵入が発見され、大規模な防疫作業によりまん延を食い止めている。

 しかし、あれほど大規模な防疫がなぜ必要なのか理解している人はどれぐらいいるだろうか。まだ発病していない大量の鶏を殺して焼却処分にし、周辺がじゃぶじゃぶになるほどの消毒薬を散布する理由を、あなたは理解しているだろうか。全身を覆う防護服を身につけた作業者の映像をテレビで観て「鶏がもったいないな。俺なら食べちゃうね」と思った人はいないだろうか。

 なぜ鳥インフルエンザがそこまで恐れられているのか ―― それは鳥インフルエンザが「ただの風邪」ではないからだ。いや、それどころか「冬に流行するいつものインフルエンザ」ですらない。

 国立感染症研究所・感染症情報センターのホームページを見てみよう。鳥インフルエンザに関する最新の情報が掲載されている。感染症例の報告を見ていくと、去年から今年にかけてインドネシアで人への感染が続発していることが分かる。

 感染確定症例数を見ると2月12日現在、インドネシアにおける累積の感染者数は127人。うち103人が死亡している。

 死亡率は実に81%だ。感染者の5人に4人が命を失っている。これはとてつもない死病と言わねばならない。「ただの風邪」ではあり得ない。後段で述べるように、新型インフルエンザがもしも世界的に流行したら、日本では第二次世界大戦と同じぐらいの死者がでると予想されているのだ。

 現在の鳥インフルエンザは、「高病原性鳥インフルエンザ」と呼ばれている。ひとたび感染すると死亡率は非常に高い。しかも専門家の間では世界的な流行は時間の問題だとされている。

 今、世界は「21世紀のペスト」というべき伝染病が流行する瀬戸際で踏みとどまっているのである。

 にもかかわらず現在、社会的に大きな危機感が醸成されていないのは、ひとえに「インフルエンザ = 風邪の一種 = たいしたことがない病気」というイメージが一般に流布しているからだ。

 専門家達は何年も前から声を大にして警告していた。しかし、一般も、行政も、政治も、その恐ろしさにまだ気が付いているとは言い難い。

 鳥インフルエンザは風邪でもなければ、毎年冬になるとやってくるいつものインフルエンザでもない。それは現代社会に死の大鎌を振るう死に神となる可能性を秘めている。

 「H5N1型ウイルス襲来」と「新型インフルエンザH5N1」はともに、国立感染病研究所の研究者である岡田氏らが、一般向けに鳥インフルエンザの実態を解説した本だ。「H5N1型ウイルス襲来」は、鳥インフルエンザの概要と爆発的流行が起きた場合の対策についてまとめており、一方「新型インフルエンザH5N1」では、インフルエンザウイルスに関するより深い、科学的な知見を記述している。この順番に2冊を読めば、一応の理解を得ることができるだろう。

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