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書評

規制後も止まない肉赤身化剤の使用

 第2章と第3章は、具体的な食品偽装の事例をまとめている。第2章はまるまる、豚肉の肉赤身化剤「痩肉精」について扱っている。

 もともと中国人は、脂ののった豚肉を好んだが、1980年代の改革開放政策以降、嗜好が変化し豚の赤身肉を好むようになった。脂の少ない赤身肉は高値で取引されるようになったが、赤身肉の豚は飼育が難しい。

 そこに登場したのが「痩肉精」だ。その正体は塩酸クレンブテロールという薬品。本来はぜんそくの治療薬として開発された。この薬品を出荷前の豚に投与すると、肉が赤身となり高値で売れる。

 「北京を例にとると、60年代は厚い脂身肉が一級品であり、一斤(500グラム)の単価は0.95元、(中略)脂層が1ミリ以下の肉は三級品で一斤0.75元であった。これが80年代はじめになると、北京ではまだ脂身肉のほうが高かったが、香港では赤身肉一斤が11香港ドルで売れているのに対して、脂身肉一斤は0.8香港ドルにまで下がり、その差は10倍以上に開いた。現在の北京市場では、赤身肉一斤8元前後に対し、一斤2、3元もしない脂身肉を買う人はわずかという変わりようだ

(中略)

ところが出荷の10日から20日前に普通の豚に肉赤身化剤を使うだけで、赤身肉タイプ豚に『速変』するのである。肉赤身化剤のコストは豚一頭わずか八元なのに、利益は22元に達し、利益率は275パーセントとなる。仲買業者も、見栄え良く、売れ行きのいい赤身肉タイプの豚だけを指定買いするようになった。なかには肉赤身化剤をみずから携えて養豚家にやってきて、『青田買い』をする仲買人も出てきた」(本書pp.59~60)

 しかし、塩酸クレンブテロールには動悸、めまい、手の震えなどの副作用がある。薬品で赤身肉化された豚を食べた者の間で、このような症状の集団中毒が発生し、社会問題となったのだった。

 著者によると、もともと赤身化剤は米国で開発されたが、1990年にスペインで中毒が起きたことからその危険性が認識されるようになった。ところが中国では1990年代後半からその使用が一般化し1998年ころから赤身化剤の中毒が報道されるようになった。2001年に広東省で相次いで数百人規模の中毒事件が発生し、赤身化剤の毒性が広く認識され、当局による取り締まりが始まった。

 しかし、取り締まりにもかかわらず、赤身化剤の使用は一向に止む気配がないという。肉赤身化剤の使用は、豚の尿を調べることで分かる。著者は、検査を行う研究者が、比較対象用の肉赤身化剤を使っていない豚の尿を入手するのに苦労していると書く。当局の規制の一方で、それほどまでに肉赤身化剤の使用は一般化しているのだ。

 官僚制度特有の縄張り意識が円滑な取り締まりを阻害しているということもある。しかしそれ以上に問題なのは、官僚の腐敗である。

 「河南省のある地方の担当官がほろ酔い気分のときにうちあけた。
『われわれみたいに年じゅう農民と付き合っている役人は、年じゅう貧乏だ。だからなんとかしなくてはね。ここでは、市場の赤身肉の売行きがいいと、業者が大勢産地に押しかけてきて、肉赤身化剤を使った豚を指定買いしたり、肉赤身化剤持参で養豚家と直接交渉したり、肉赤身化剤の豚を高く買い上げている。われわれもメシを食わねばならない。国の規制以来、ここはまだ一度も肉赤身化剤事件が見つかっていない‥‥。これであんた、わかっただろうね』」(本書pp.73~74)

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