貴重な、当事者として過去を語る態度
本書に登場する著者以外の人たちには、本書の記述に対する異議もあるだろう。しかし民営化から20年を経た現時点で行うべきは、まずなによりも当事者による証言集めだ。
著者は2001年にも「未完の国鉄改革」(東洋新報社)という記録を出版しており、国鉄民営化の記録を、積極的に残そうとしている。これは、後世に対して責任を取る態度として高く評価するべきである。
本書は民営化を推進する側から記述されている。このため、特に労働組合の側から民営化に関係した人々の中には、本書の記述に異議を唱えたい向きも多いはずだ。その人たちには、是非ともそれぞれの記憶を掘り起こし、出版でも録音でもなんでもいいから、それぞれの記録を残してもらいたいと思う。
概して日本人は、記録を後世に残すことに対して、「過ぎてしまったことだから」と消極的になる傾向がある。しかし、政治にしても経営にしても、きれい事だけで済むことはまずない。それらきれいごとではない部分も見据えて、きちんと未来に事実を残すという意志を持って書かれた記録は、我々の社会が、我々の子孫が、同じ過ちを繰り返さないために非常に重要だ。
本書が、その要請に完璧に答えているわけではない。特に、分割民営化の法理を考案した「法律専門家」をはじめとして、「なぜそこで匿名を使うか」と言いたくなる記述は多い。欧米の政治家、科学者などの回想録を読むと、好悪の感情をはっきり出し、敵対者ははっきり実名を出して記述しているのが普通である。
聖徳太子以来「和を以て貴しと為す」は日本の伝統かも知れない。しかし、歴史学的には「誰が誰をどのように評価したか」も重要な情報である。
国鉄の民営化は、今後何十年にわたって、何度となく検証されるべき「昭和の大事業」だろう。著者以外の関係者が、奮起し、それぞれの記録をまとめることを願うものである。
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