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書評

松浦 晋也氏
2007年10月12日

「イラク占領」

「イラク占領」

パトリック・コバーン著
大沼安史訳
緑風出版
2007年4月発行
2940円(税込み)

 いったいイラクの状況はどうなっているのだろうか。

 断片的なニュースは入ってくる。日本国内では、海上自衛隊がテロ対策特別措置法に基づき、インド洋で米海軍の艦船に対して給油した燃料が、イラクでの作戦に転用されたとの疑惑が持ち上がり、福田新内閣は火消しに懸命だ。

 だが、イラク国内が全体としてどのような状況になっているのかは、非常に見えにくくなっている。誰が実際の権力を掌握し、どのような政策を推進しようとしているのか、対抗勢力は誰であり、どのような思惑を持っているのか、米国以下の世界各国はイラクをどのような目で見てイラクに介入しているのか。

 そしてなによりも、現地はどんな状態になっているのか。住民は何を見て、何を感じ、どのような生活を送っているのか。

 イラク戦争の後、さまざまなことがあった。サダム・フセインの像が引き倒され、銅像の頭を履き物で叩く子どもの映像が配信され、「それほどサダムは憎まれていた」「いや、あれはヤラセだ」とさまざまな意見が出た。ブッシュ米大統領が勝利を宣言し、連合国暫定当局が設置された。米国軍の占領下で、亡命イラク人を主としたイラク統治評議会が動きだした。イラク人によるイラクの統治は、暫定政権、移行政府、正式政府と徐々に足場を固めていった。そのはずだった。

 しかし、2006年5月に正式政府が発足した後も、米国軍は撤退するどころかますます兵を増派している。メディアでもネットでも、「イラク統治はうまくいっている」という報道と「うまくいっていない」とする報道とがせめぎ合っており、日本からは実態がどうなっているのかよく分からない。ブッシュ米大統領が、「テロとの戦い」を強調するステートメントを出す都度、「なるほど、『テロとの戦い』を強調しなければならない程に、イラクにおける米国の対テロ戦略はうまくいっていないらしい」と推察する程度だ。

 イラクの現状を的確に解説してくれる本を探して、今回取り上げる「イラク占領」に行き当たった。著者は英インディペンデント紙で、過去30年近くにわたって中東を専門としてきたベテランのジャーナリストだ。

 本書は2002年のイラク戦争前夜から、2006年前半までのイラク情勢を扱っている。原著は2006年10月に出版され、邦訳は今年の4月に発売された。原著出版からそろそろ1年が経過したが、本書の価値は下がっていない。歴史や生活習慣から、政治情勢に至るまで、イラクを熟知した練達のジャーナリストが、現地の生の状況を取材して情勢分析を行った ―― わたしは、本書をイラク情勢を把握するための必読書であると評価する。

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