松浦 晋也氏
2007年2月13日
カール・タロウ・グリーンフェルド著 山田耕介訳
文藝春秋
2007年1月発行
各1890円(税込み)
今、鳥インフルエンザの脅威が日本に迫っている。野生の渡り鳥を宿主とし、その糞から養鶏場の鶏に感染するというルートで、鳥インフルエンザは日本に侵入しようとしている。
インフルエンザはインフルエンザウイルスによって引き起こされる疾患だ。通常は中央アジアあたりのほ乳類に潜んでおり、冬季になると感染を拡大して流行する。鳥インフルエンザウイルスは致死率が高く、基本的に鳥類の腸管内で増殖し、糞によって感染拡大する。基本的には鳥類のみがかかる病気であり、人間はよほど大量のウイルスを浴びない限り発病しない。
しかし、インフルエンザウイルスは非常に突然変異を起こしやすい。人体内に入った鳥インフルエンザウイルスは、そのうちに人体に適応した突然変異体を生み出し、人に感染するようになることが予想されている。毒性が強く人間にも感染するインフルエンザの誕生だ。だからこそ、現在徹底した鳥インフルエンザの封じ込めが行われているのだ。もしも人間にも感染発病する鳥インフルエンザが発生したら、その影響は計り知れない。
ここで思い出してもらいたい。今から4年前の2002年の暮れから2003年にかけて、中国を中心に新型の感染性ウイルス疾患が猛威を振るいかけたことがあった。その名はSARS(サーズ: Severe Acute Respiratory Syndrome、重症急性呼吸器症候群)。
「ああ、そんなことあったなあ」と思う人が大部分だろう。そういえば中国がいいかげんな対応をして後で謝罪した、ぐらいのことは思い出すかも知れない。
実際には、あの時世界は死亡率の高いウイルス性疾患が大流行する瀬戸際にあった。4年前、人類がほんの少し対応を間違えていれば、今、この記事を読んでいる人の中でも少なからぬ人数がSARSで死んでいたのかもしれなかったのである。
本当は何が起きていたのか。本書はSARS流行の過程と、大流行を阻止しようとする医療関係者の戦いを追ったドキュメンタリーだ。著者は2002年当時、米タイム誌香港版のタイム・アジア誌の編集長を務めており、SARS報道の最前線にいた。
本書が示すのは、病原性ウイルス封じ込めにおける中国という場所の重要性、そして重要性と裏腹のいい加減な中国政府当局の防疫体制である。本書の副題は「そいつは、中国奥地から世界に広がる」というものだが、正確には「そいつは、中国奥地から、中国政府当局の不手際によって、危うく世界に広がりかけた」であろう。
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