テクノロジーの進歩に逆らう業界に未来はあるのか
そもそも、テレビ放送とは何かを考えてみると、無線によって動画像を同時に多数の端末に送り込む技術だ。20世紀初頭から研究開発が本格化し、第二次世界大戦後に世界的な実用化の時期を迎えた。
現在のテレビ放送を巡る社会制度は、すべてこのテクノロジーの実用化段階に整備されたものだ。その後、動画像を扱うテクノロジーは大きく発達したが、社会制度はそれに対応して変化してこなかった。
だが、それでいいのだろうか。
テクノロジーのみを考えれば、全く異なる合理的な放送サービスが考え得る。現代のテクノロジーを十全に生かす方法だ。
例えば、NHK には全国あまねく放送を行う法的義務が課せられている。これにより、かつては地方のテレビ用の電波送信設備の整備が促進された。
しかし、今や放送衛星の登場と実用化により、全国あまねく放送を行うためには、衛星放送1チャンネルだけあれば十分になっている。となれば、「 NHK は衛星放送のみに特化して、地上波の免許は返上すべきだ」という議論だって成立する。そうすれば、電波塔に代表される地上インフラに膨大な投資をする必要はなくなる。
「ここまで普及した地上波テレビで NHK が見られなくなっていいのか」という議論は出てくるだろう。しかし、現在デジタル放送への切り替えが進みつつあり、当の NHK が必死になって宣伝している通り、2011年にはアナログ放送は停波する。現在は、家庭の受像器がすべて更新される変革期なのだ。
同じ更新を画策するなら、衛星放送のチューナーへの更新を狙うというのもありではないだろうか。
地上デジタル放送では、アンテナ交換が必要となる場合も多い。ならば、地上波用のアンテナではなく、衛星用パラボラアンテナを買うのも、コストと手間の点では似たようなものだ。
どうせ家庭の受像器が更新されるのならば、テレビ放送をすべて衛星放送のみにして、地方局もキー局と同じく全国放送を可能にするということだって考えられる。地方局がそれぞれの地域の特色を生かした番組を競って製作するようになれば、視聴者としては選択の幅が広がるということになる。それはコンテンツ大国を目指す国策とも一致する。
もともと動画像を送り出すために広い電波帯域を必要とするテレビ放送は、高い周波数の電波を使用する衛星放送に向いている。高精細のデジタルハイビジョンとなればなおさらだ。
しかも、既存の地上波放送がすべて衛星へと移行するならば、VHF帯とUHF帯に、広大な空き周波数ができる。この電波資源を、現在のテクノロジーに合致した形で再分配すれば、日本の社会をより便利で安全なものにすることができるだろう。
「衛星放送は、降雨によって途切れることがある。それでは緊急時の災害放送に役立たず、公共の責務に耐えない」という反論が出てくるだろう。しかし、降雨による電波の減衰を防ぐ技術は既に開発に入っているし、デジタル地上波のワンセグだけがあれば、災害時の緊急放送には十分だ。ワンセグならば、狭い電波帯域でも十分放送できるし、今後は携帯電話に受信機能が付くことによって、国民の誰もがいつでも受信できるようになるだろう。
広告という観点からすれば、インターネットを通じた YouTube のような動画ポータルの方が、無線を使ったテレビ放送よりも効率的に情報を視聴者に送り届けることができる。視聴者が見た番組の履歴から嗜好を割り出して、最適の広告を送り出すことができるからだ。
放送業界関係者は「なんという暴論だ」と思うかもしれない。しかし、現実社会のしがらみを離れて現代のテクノロジーのみを考えるならば、テレビ放送には、地上波や県別の電波免許制度に執着する理由はない。むしろ衛星放送やインターネットによる全国放送へと移行してしかるべきなのだ。
もちろん、現実にはこのようなことは起きていない。地上波テレビ放送はなくなるどころか、地上デジタル放送に莫大(ばくだい)な国費が投入されており、各種メディアは「2011年にアナログ放送は終了します」と繰り返している。
本書を読むと、その理由がよく分かる。決して「その方が視聴者が便利になるから」ではない。「その方がもうかるから」「もうかる仕組みが壊れないから」だ。
だが、そのもうかる仕組みは、半世紀昔の、今となっては効率がよいとは言えないテクノロジーを前提としているのである。
正直なところ、「こんなことをやっているようでは、放送業界に未来はないのではないか」と思わせる。そんな本だ。メディアに興味を持つ人、放送業界に就職を希望する学生などにお薦めする。
最後に一言。民放各局が、インターネットによる過去のコンテンツの送信に消極的な理由の中には、「過去に行った“やらせ”がばれるから」というものがあるそうだ。
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