バックナンバー一覧▼

書評

松浦 晋也氏
2006年12月26日

「テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか」
「テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか」

吉野次郎著
日経BP社
2006年12月発行
1575円(税込み)








 昨年(2005年)、インターネットの世界における最大の話題は YouTube に代表される動画ポータルサイトの出現だった。ユーザーが勝手に各種動画をアップロードでき、自由に閲覧できるというコンセプトは一躍大人気となり、追従するサービスが続出した。今年(2006年)10月には、Google が YouTube を買収した。買収価格は16億5000万ドル(約1950億円)。動画ポータルは、わずか1年でこれだけの金額が動くビジネスへ成長したのだ。

 もちろん、と言うべきなのだろう、YouTube には問題も存在した。著作権その他の権利が存在する画像が、権利者の許諾なしにどんどんアップされたのである。YouTube 側は、アップできる画像を10分以下の長さに限定し、権利者からの抗議が来るたびに当該動画像を削除してはいるものの、根本的解決に至っていない。

 だが、それでも動画ポータルを禁止しろという議論が起きないのは、これがあまりに便利なサービスだからだ。実際 YouTube の中を検索すると、実に多種多様な動画が、世界のどこかにいる誰かによってアップされている。検索をかけていくとたいていのものが見つかる。

 白状するならば、わたしは学生時代によく見たミュージックビデオを YouTube で探し、楽しんでいる。もちろんそれらは無許可アップロードではあるのだけれども、20年以上前のミュージックビデオなど、いったいほかのどこを捜せば見ること、買うことができるのだろうか。

 しかも、権利者側にとっても、わたしがミュージックビデオを見るということは、強力な宣伝を、一切コストをかけずに行っているということになる。最近では、動画ポータルをコンテンツのプロモーションや商品の宣伝に使用する動きも出てきている。

 さて、映像コンテンツを多数保有しているという意味では、テレビ局の右に出るものはない。

 「NHK や民放各局は、YouTube のように自らの保有する映像コンテンツをインターネット経由で流せば、結構な規模のビジネスを構築できるのではないか」――誰でも考え付くアイデアだろう。

 しかし、今のところ、テレビ局が番組のネット配信に積極的に出てくるという話はない。なぜだろうか。

 本書はこの疑問に明確に答える。「今の方がもうかるから」と。

 著者は、主に放送業界を取材してきたニューズレター誌の記者だ。取材の過程で見えてきた放送業界の構造を、平易な言葉で解説していく。ビジネスマンはもちろんのこと、テレビに興味のある人なら、それこそ中学生でも本書を読み通すことができるだろう。

 テレビ業界の華やかさにあこがれている人は、是非とも本書を読んでもらいたい。本書は、インターネットとテレビ放送との関係を解説すると思わせて、実際には「金がすべて」という業界の論理を明快に解説していく。

 なぜ、テレビ局がインターネット放送に乗り出さないかも、この観点から説明される。「今までの仕組みを維持した方が金になるから」なのだ。

SAFETY JAPAN メール

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。