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書評

松浦 晋也氏
2006年11月24日

「温暖化クライシス」
メタルカラー烈伝
「温暖化クライシス」


山根一眞著
小学館
2006年11月発行
2415円(税込み)







 災害が発生すると、必ず出てくるのが「誰の責任だ」という声だ。それが自然災害であっても「これほどまでに大きな被害が出たのは行政の不作為ではないか」という論調が、まず間違いなくマスコミに出てくる。かつてならば「運が悪かった」で済ませていた事柄が、最近ではそうはいかなくなってきている。

 「誰の責任だ」という声がでる理由は、ひとつにはわたしたちの準備できる防災手段がかつてとは比較にならないくらいに増えていることがあるのだろう。

 ときおり江戸の街を襲う大火は、庶民にとって避けられない災害だった。しかし、現在は耐火建築や都市計画から、スプリンクラーのような消火設備に至るまで、様々な防火の手だてが存在する。もしも広範囲が焼失する火事が発生したなら、科学的手法で出火原因と火元が特定され、火元の責任が追及されることになるだろう。

 しかし、防災のための準備というのは、非常に難しい。それ自身は災害が起きないと役に立たないからだ。物事がうまく回っている限り防災設備は不要の存在だ。日常が続いている限り、防災のための出費は、他の出費を圧迫する無駄金なのである。

 だからといってこの出費を抑制すれば、いざ災害が起きたときに大きな被害が出ることになる。そして「誰の責任だ」という声が上がるわけだ。

 災害のあり様が、過去の事例から類推できるものならば、「誰の責任だ」という声にも意味がある。しかし、もしも我々を取り巻く環境が過去とは変わっていて、その結果として災害の質や量が過去から類推できないものへと変質しているならば、我々は「誰の責任だ」などと言ってはおれなくなる。的確な研究と予測に基づき、可能な限り災害への備えをしなくてはならない。

 本書のタイトルにある「温暖化」は、「地球温暖化」のこと。産業革命以降、人類は温室効果を持つ二酸化炭素を大気中に排出し続けている。観測が始まって以降、大気中の二酸化炭素の比率は上昇し続けている。そして、それに呼応するかのように、地球全体の平均気温も上昇している。これは事実だ。そして過去に比べて温暖化が原因と思われる災害も増えている印象もある。

 だが、これだけでは「地球は本当に温暖化傾向にあるのか」「人類が排出する二酸化炭素が地球温暖化の原因なのか」「温暖化によって過去とは異なる巨大災害が起きているのか」などの命題に「イエス」と言い切ることはできない。これらの命題を証明するためには、科学観測に資金を投じて、もっと精密な論証を見つけだす必要がある。

 その一方で災害は待ったなしでやってくる。「もっと科学的に厳密な論証が必要。ここでうかつに二酸化炭素排出量削減などを行えば経済活動に影響が出る」という態度でいると、決定的な事態が来たときには手遅れになっている可能性だってあり得る。

 このような現状の中で、いったい災害研究の現場は今何をしているのか、災害被害防止はどのように行われているのか、そして災害救助の現場はどのように働いているのか、本書はこれらの疑問に、現場の人々へのインタビューを通じて迫っていく。

 オリジナルは著者が「週刊ポスト」誌に「メタルカラーの時代」というタイトルで長年連載している文章だ。本書は、その中からここ数年の間に掲載した災害に関するインタビュー33件を選び、一冊にまとめたものである。「メタルカラーの時代」としては7冊目の単行本となる。

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