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書評

松浦 晋也氏
2006年10月13日

「遺品整理屋は見た!」
「遺品整理屋は見た!」

吉田太一著
扶桑社
2006年9月発行
1260円(税込み)







「生き恥」ならぬ「死に恥」

 かんべむさしに、「死に恥」という短編小説がある。ある若者が、つまらないことで死んでしまう。その通夜で、悪友が調子にのって故人のはずかしいあれこれを暴露するのを、死んだ本人の霊がその場で目撃するという話だ。「うわ、そんなこと言うな。恥ずかしい」と思っても、自分は死んでしまっているので手が出せない。自分ではどうしようもできない、のたうちまわるような恥ずかしさを描いた爆笑の傑作だった。

 あなたが男性なら、中学高校のころ、「俺が死んだら、隠してあるエロ本を母ちゃんに見られる」とか考えたことはないだろうか。あれです、あれ。

 本書も基本的に「死に恥」の話だ。しかし実話となると、爆笑短編小説のようにはいかない。実際、本書には大量のアダルトビデオの遺品を処理する話が出てくるが、決して爆笑では済まない陰惨な話である。

 だが、死んだ後の遺品整理のあれこれぐらいなら、まだましだ。

 人は死ねば死体となる。死体は放置すれば腐敗する。一人暮らしで、孤独死を迎えた場合、あるいは自殺の発見が遅れた場合、死体は腐敗し、悪臭をまき散らし、しみ出た液が畳、じゅうたんのみならず床にまでしみを作る。場合によっては昆虫が食い散らかし、カビが生える。

 そのまま放置すれば最後はバクテリアがすべてを分解し、死体は骨を残してちりに帰るが、人間社会は、発見した死体がちりに帰るのを待つほど悠長ではない。見つけてしまった以上は、誰かが悪臭と粘液のシミと、群がるうじ虫を片付けなくてはならない。

 本書は、遺品整理の請負という仕事を始めた著者が見た、死後の現場の話をまとめたものだ。当初、ブログに連載していたものが評判になって出版社の目にとまり、書籍化された。書き口は平易で、普段本を読む習慣のない人でもたやすく読み通すことできるはずだ。

 多くの人は、「遺品整理屋は見た!」という題名に、市原悦子主演のテレビドラマシリーズ「家政婦は見た!」を思い出し、刺激的かつ隠微な世界をのぞき見できるのではと期待して本書を読み始めるかもしれない。

 しかし、読み進めるほどに、本書は気が滅入るような死後の世界の現実を突きつけてくる。

 そうだ、先般物故した丹波哲郎が言っていたように「確かに死後の世界はある」。ただし、死んだ当人が行く救済の世界ではなく、本人の死後に残された人々が直面する現実として、だ。

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