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JAXA/三菱重工、H-IIBエンジン燃焼試験を公開
開発は順調、先行きは不透明

2008年8月15日 12時25分

(松浦晋也=ノンフィクション・ライター)

8月11日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業は、来年夏に最初の打ち上げを予定しているH-IIBロケットの第1段エンジン燃焼試験を、三菱重工田代試験場(秋田県)で、報道向けに公開した。

H-IIBは、国際宇宙ステーション(ISS)の物資補給のために日本が運用する貨物輸送船「宇宙ステーション補給機(HTV)」を打ち上げるためのロケット。16.6トンの重量があるHTVは、地球低軌道に10~12トンの打ち上げ能力である現行のH-IIAロケットでは打ち上げられない。そこでH-IIBは第1段を強化することで16.5トンに打ち上げ能力を増強している。

第1段はH-IIAがLE-7Aエンジン1基を装着するのに対して、H-IIBは同2基を使用する。それに合わせて第1段の直径もH-IIAの4mであるのに対してH-IIBは5.2mとなり、1.7倍の推進剤を搭載するようにした。

H-IIBロケット(左)とH-IIB打ち上げ想像図(いずれもPhoto by JAXA)

H-IIBロケット(左)とH-IIB打ち上げ想像図(いずれもPhoto by JAXA)

今回公開した試験は、2基のLE-7Aエンジンに同じタンクから推進剤を供給し、同時に運転する「クラスタリング」と呼ばれる技術を習得するためのもの。実物のタンクよりも肉の厚い推進剤タンクを使用するので「厚肉タンクステージ燃焼試験(BFT:Battleshhip Firing Test)」と呼ばれる。田代試験場のBFT施設は、2基のLE-7Aエンジンを同時に50秒強の間燃焼させることができる。今年の3月から始まった試験は、8回を予定しており、11日に公開されたのは最後の第8回燃焼試験。

BFTの様子(Photo by JAXA)

BFTの様子(Photo by JAXA)

ロケットエンジンの試験には大変な手間がかかる。8月11日は深夜午前1時半から準備が始まり、実際の試験が行われたのは午後0時ちょうどだった。

試験時には高温の噴射ガスで施設が傷まないように、エンジンノズル下に放水を行う。LE-7Aエンジンは推進剤に液体酸素と液体水素を使用するので、噴射ガスの主成分は水蒸気だ。秋田県と青森県の県境近くにある試験場に、噴射ガスと放水した水から発生した水蒸気の雲がわき上がり、轟音が近くの山肌に響き渡った。噴射は54秒間続き、正常に終了した。

田代試験場における8月11日の燃焼試験の様子

田代試験場における8月11日の燃焼試験の様子(この下の画像をクリックすると動画がご覧いただけます)

日本初のエンジンのクラスタリングを採用

複数のロケットエンジンを束ねて同時に運転するクラスタリングは、旧ソ連やアメリカ、欧州などでは当たり前に使われている技術だ。既存のエンジンを複数使用することで、比較的簡単に大きな推力を得ることができる。しかし、これまで日本はクラスタリングを採用してこなかった。束ねるべき「すでに完成しているロケットエンジン」が存在せず、まずロケットエンジンを開発するところから始めなければならなかったからだ。エンジンの開発と、クラスタリングを同時並行で進めるのは、かなりの困難が伴うという判断だった。

H-IIBでは、LE-7AというH-IIAで開発したエンジンが既に存在したことから、少ない開発費でより大型のロケットを開発する手法としてクラスタリングが採用された。

日本としては初めての液体ロケットエンジンのクラスタリングだが、「実際にやってみると、意外に簡単だった」(後藤智彦・三菱重工宇宙機器技術部・H-IIBプロジェクトマネージャー)という。クラスタリングでは2基のエンジンからの噴射ガスがぶつかって干渉したり、ガスがぶつかった部分が高温になり、そこからの照りかえしがエンジン本体に影響を与えるなど、エンジン1基の時とは異なる課題が発生する。しかし、かつては実際に燃焼試験を行わなければ確認できなかったことが、コンピューター・シミュレーションで済むようになるなど、周辺技術の進歩が開発を容易にすると同時に低コスト化した。

試験後に取材に応じる三菱・後藤プロジェクトマネージャー(右)とJAXA・有田ファンクションマネージャ(左)

試験後に取材に応じる三菱・後藤プロジェクトマネージャー(右)とJAXA・有田ファンクションマネージャ(左)

開発コストの低減化を徹底

H-IIBはJAXA・三菱重工共同体制で開発されている。JAXAが基本設計と全体取りまとめ、ハイリスクの開発試験、試験機打ち上げ、打ち上げ時の安全評価を担当し、三菱重工は詳細設計や大形ロケット製造に必要な生産技術の研究、生産設備の整備などと受け持つ。開発費用はJAXAが187億円、三菱重工が75億円を出資。

H-IIBの開発費用は新型のロケットとしては異例なほど安い。通常、H-IIBと同規模のロケットを開発するには、少なくともこの10倍はかかる。エンジンからすべて新規開発となると20倍になってもおかしくはない。

H-IIBは、徹底して既存のH-IIAの部品の流用することで開発コストを抑えている。新規開発は直径5.2mの第1段の基本構造のみ。第1段エンジン、第1段の周囲に4本装着する固体ロケットブースター、第2段、飛行中の機体の姿勢は飛行方向を制御する電子系、ペイロードを保護するフェアリング――すべてH-IIA用ものを流用するか、小改修を施して使用している。また、今回のBFTに使用するエンジンも1基は、H-IIAロケットの開発の時に使用したエンジンを再利用するなど、開発費用の低コスト化も徹底している。

来年夏打ち上げの試験1号機の調達費用は147億円。2号機以降はこれよりも安くなる見込みだが、現時点では未定となっている。ここでも費用の抑制は徹底しており、1号機に使用する第1段は、来年初頭に種子島で行う実機を使用した燃焼試験「実機型タンクステージ燃焼試験(CFT:Captive Firing Test)」に使用するものを流用する。CFTは機体構造に大きなストレスがかかるので、これまでCFTに使用した機体を打ち上げに流用した例はない。しかし「過去のCFTに使用した機体を調べたところ、十分打ち上げに使用可能な状態を保っていることがわかった」(有田誠・JAXA宇宙基幹システム本部H-IIBプロジェクトチームファンクションマネージャ)ことから、CFTの機体流用を決めた。

不透明な先行き、離散する技術者

燃焼試験終了後、「写真撮影はなし」という条件で、試験設備と使用したエンジンを間近から見学することができた。BFT試験設備の中では、エンジン内部に残る水分を除去するためのパージの準備が行われていた。

関係者の顔色は一様に明るかった。開発が順調に進んでいることもあるだろうが、それ以上に「開発すべきアイテムがあり、力を合わせて目指すべき目標が存在する」ことが現場の雰囲気を明るくしているように見えた。

しかしH-IIBを巡る情勢は必ずしも明るくない。H-IIBは来年夏に打ち上げを予定している試験1号機を皮切りに、2015年まで年1機ずつ、HTVを搭載して打ち上げることになっている。つまりHTVという官需専用の機体なのだ。三菱重工は2005年にJAXAからH-IIAロケットの移管を受けてから、「年2機の官需に加えて、商業打ち上げ市場から年1機の打ち上げを受注したい」として営業活動を続けているが、現在のところ受注にまで至った案件はない。

H-IIBは、静止トランスファー軌道へ8tの打ち上げ能力を持つ。三菱重工は「国際競争力確保にはトランスファー8tの能力は必要」として、H-IIBでも国際市場からの打ち上げ受注を目指す意向だが、先行きは不透明だ。しかも、年2機の官需を持つH-IIAと比べ、H-IIBは年1機とビジネスの基礎となる官需の部分が弱い。

かなりの部品が共通なので、「まとめて官需が年間3機」というビジネススキームに持っていくことも可能だろう。しかしそのためには「H-IIB」ならではの部分をより一層低コスト化することが必要になるはずだ。

さらに、その先には「H-IIA/H-IIB以降の日本の主力ロケットをどうするのか」という大問題が横たわる。JAXAは2008年に始まる中期計画(2008~2012)では、予算の不足から次期ロケットの開発に入らない方針を決めている。しかし、ロケットの開発は継続していかなければ技術者が育たず、人材の空洞化が起きる。2001年のH-IIA初飛行から7年が経ち、当時第一線だった技術者も管理職となったり定年となったり、あるいはメーカーを離れたりで離散しつつある。「H-IIBをやったことで、また若い世代の間で技術者が育ちつつある。この流れを途絶えないようにしなくてはいけない」(有田ファンクションマネージャー)。

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