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Q.ライブドア事件がIT企業に与える法的影響は?

ライブドアの錬金術を法的に照らし合わせてみる

一方、ライブドアの過去のビジネス手法は、未知の領域を切り開く開拓者である側面とともに、灰色は違法ではないという論理で法律の許容範囲ギリギリの際どい経営を行なってきた。例えば、その1つの手法が株式分割である。

株式分割とは、それまでの1株を1.5株とか2株に分割することである。例えば、1株を2株に分割すれば、1000株の持分は2000株になる。株価が分割以前に、1000円ならば、分割により500円になる。しかし、分割前の時価総額は、理論上100万円(1000株x1000円)、分割後も100万円(2000株x500円)で変化はない。しかし、会社の発行済み株式数は2倍になり、各株主の持ち株数も2倍になる。新たな資本の払い込みがないので株主資本の総額には変化はなく、各株主の株式保有割合もなにも変わらない。

ところが、分割後は、株主数や売買高が増え、株式の流通性が高まったケースも多い。例えば、通常、1単元を1000株としている会社の場合、分割後は、2000株(2単元)の保有となり、1単元づつ2回に分けて売買することができる。株式分割は、取締役会の決議で行なうことができ、しかも従来、分割後の1株あたりの純資産が5万円を下回ってはならないという規制が、2001年10月施行の商法改正で撤廃されたことで自由におこなうことができるようになった。

至極まともな株式分割の例は、セブンイレブンの場合で、株価が1万円を超えると分割をしており(通常、1対1.1ないし1対1.2程度の割合)、1979年の上場から2004年4月までの25年間に16回株式の分割を行ない、最初1000株を保有していた人は、2004年には3万8000株に持ち株を増やしたことになる。

ヤフーは、1999年以降、3月と9月に1株を2株に分割するという分割を繰り返してきた。これは、投資家が買い易いようにして株式の流動性を向上させる目的で行なわれている。確かに、1株が100万円を超えるような株式に手を出すことは難しく流動性も低い。以上のように、株式分割は多くの上場会社で盛んに行なわれているが、通例は、1株を1.5株とか2株、せいぜい3株程度に分割する程度であった。

ライブドア事件の教訓

ところが、ライブドアの場合、10分割後に100分割、更に10分割と1年以内に1万分割というすさまじい分割が行なわれてきた。しかし、単純に100分割自体は他の会社でも行なわれたことがある。例えば、平成17年3月1日に実施されたスカイマークエアラインによる、株式の200分割は、投資単位(1単元100株)の金額を引き下げ、投資家にとって買いやすくするということにより、株式の流通活性化と株主層の拡充を目指すという意図があった

しかし、ライブドアは、投資単位が1株からと非常に売買がしやすく、ネット取引に最適の株式であった。しかも、極めて大幅な株式分割が実施されると、それに伴い、新株券の交付までの間に一時的かつ大幅な需給不均衡が生じ、株価の急激な変動を招く事例が生じる。

従って、東京証券取引所は、2005年3月7日、「大幅な株式分割の実施に際してのお願い」を公表し、1:5以上の株式分割を行う場合に、その目的、当該分割後の配当方針、目標とする株主の増加数などの当該分割比率決定の根拠などを投資家に対して詳細に開示するようもとめる通知を各上場会社代表者におこなった。

このように、自由に株式分割ができると規定しておきながら、100分割後に10分割と分割を繰り返す行為自体が直ちに違法とは言えない。会社法学者の一部には、1株あたりの純資産が5万円以上という規制を復活すべきだとか、規制強化の提言もしているが、自由化、規制撤廃の動きを止めるのは適正とは思えない。

むしろ、強化すべきは、情報開示と法令遵守の徹底である。何を目的として株式分割をおこなうのか、何のために投資事業組合を設立したのか、何のためにM&Aを行なうのかを明確に開示すべきである。

投資家のために事業をおこなうのが上場会社の経営者の使命であれば、投資家のための情報開示と、なによりも法令遵守を強化しない会社は、巨大企業であっても倒産の憂き目にあってきた。NRIセキュアテクノロジー社の上場企業アンケート結果によると、企業のリスクとして、もっとも恐れるのは、「法令違反」、そして「事実と異なる財務報告」である。

このような重要項目を重視しない企業は、市場の一時的評価を受けたとしても、淘汰されるということをライブドア事件は教えている。

鼎 博之(かなえ ひろゆき)
国際取引、企業法務、M&A、技術援助、ソフトウエアライセンス契約、ジョイントベンチャー、知的所有権を専門とし、第二東京弁護士会紛議調停委員会副委員長、国際交流委員会副委員長、常議員、綱紀委員などを歴任。ニューヨーク州での弁護士資格もあり。著書には、「会社役員の仕事」(共著、中央経済社・2003年)「Q&Aでわかるネットビジネス法律相談室」(共著、日経ネットビジネス・2000年)「電子商取引に関する日本の法制度」(共著、コマースネット ジャパン・1999年)ほか著書多数。新東京法律事務所所属。
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