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Q.ライブドア事件がIT企業に与える法的影響は?

(2006/02/01 鼎 博之 弁護士)

第19問 ライブドアの堀江貴文社長らが、1月23日に証券取引法違反容疑で逮捕されましたが、今後のネットビジネスベンチャー企業にどのような影響を与えるでしょうか。

A.法令遵守意識がない会社は市場から淘汰

1月16日、東京地検特捜部は、ライブドアの六本木ヒルズ事務所を捜索するとともに、隣接する堀江貴文社長の自宅高層アパートほか、関連する多数個所を捜索した。その後、1週間後の1月23日遂に、堀江社長、宮内亮治最高財務責任者(CFO)、岡本文人取締役兼ライブドアマーケティング(LDM)社長、中村長也執行役兼ライブドアファイナンスの4人を証券取引法158条違反(偽計取引、風説の流布)容疑で逮捕した。

証券取引法158条は、「何人も、有価証券の募集、売り出し、もしくは売買その他の取引、…のため、又は有価証券の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、偽計を用い、…てはならない。」と極めて包括的にしか規定していない。何が風説の流布であるか、また何が偽計であるかは、個々の事件ごとに異なり、判例などの具体的な事例をもとに判断される。

逮捕容疑を法律的な視点から解説すると

各新聞報道によると、東京地検特捜部は、本件逮捕の容疑となった事実は、だいたい次のようであったと発表した。

2004年10月25日、子会社であったバリュークリックジャパン(現LDM)が、1対1の交換比率で出版社のマネーライフ社を子会社化すると発表した。その理由として、次の事実を公表したがすべて虚偽であった。

  1. 大きなシナジー効果が見込めるというが、真実はバリュー社株の100分割(同年11月8日発表)を交えて株価をつり上げるのが目的であった。
  2. 株式交換比率は第三者機関が算出したというが、真実は、ライブドアファイナンスの社員が、ライブドアに大量のバリュー社株を取得させるためにマネー社の企業価値を過大に評価していた。
  3. 両者間に資本関係、人的関係はないというが、ライブドアが発表の4カ月前に投資事業組合を通じてマネー社を子会社化していた他、ライブドアファイナンス取締役がマネー社取締役を兼任しており、資本・人的関係があった。

上記一連の虚偽の事実をライブドアが発表し、結局のところ、ライブドアないしバリュー社の株式について「有価証券の売買のため」又は「相場の変動を図る目的」があったと認定されなくては証券取引法違反という犯罪にならない。

無罪の推定の原則に対して先走る報道

もちろん、上記のような虚偽の事実の公表という事実が存在したかどうかを捜査するのが、検察の役目であるから、逮捕された4人の批判をすることは時期尚早である。本来、刑事事件については、裁判所の判決が確定するまでは無罪の推定の原則がはたらく。しかし、それにもかかわらず、新聞報道では既に、4人の証券取引法違反が確定したかのような報道がなされている。

「1月25日には、宮内氏がライブドア本体での粉飾についても事実関係を大筋で認め、堀江氏の了承を得ていたと供述していたことが関係者の話でわかった」

「ライブドアが2004年6月以降、プロ野球近鉄球団やニッポン放送の買収に相次いで名乗りを上げたのは、個人投資家の注目を集めて株価をつり上げるのが主要な目的であったとみられる」

「粉飾決算の疑惑が持たれているライブドアが2004年8月までに、投資事業組合を隠れ蓑に消費者金融会社旧ロイヤル信販と結婚仲介サイト運営会社キューズネットの2社を買収したうえ、連結決算の対象外に見せかけて、この2社から粉飾決算に使う利益をつけかえたことが分かった」

逮捕初日の報道には、東京地検の伊藤鉄夫次席検事が、1月23日「証券取引の公正を害する重大な法律違反があることが明らかになった。ライブドアグループの存立の中心のところで違反をしている」と語ったと、ニュースの取材源の発表があるほかは、「関係者の話で分かった」「株価をつり上げるのが主要な目的であったとみられる」「決算粉飾に使う利益をつけかえたことが分かった」などと報道されており、関係者とはだれか、なぜそうと分かったのか、全くわからない。

これでは、すでに逮捕から数日で4人の有罪が確定したかの如くである。上記のように、証券取引法違反は、余りにも漠然とした規定であり、嘘をつく意図があったかどうかは、被逮捕者の供述がないと立証することができない犯罪である。

逮捕から2日目の25日には、東京地裁が10日間の勾留を決定したが、通常この種の犯罪にはさらに10日間合計20日間の勾留がなされるのが通例である。しかも、20日間の勾留で取調べが終了するわけではなく、複数の容疑事実がある場合には、いったん一件の起訴がなされた後、再度別の事実で逮捕勾留がなされることが予想される。今回のように複数の事件が容疑となっている場合、2カ月ないし3カ月間捜査と取調べが続く可能性がある。

日頃、裕福な生活をしている被疑者らが、昼間は長時間の取調べを受け、夜間は拘置所で寝泊りするという生活を20日以上も行なった場合、心身ともに疲労困憊する状況に陥るのは目に見えている。しかも、否認していれば、場合により1年以上も保釈が許可されない状態が続く。どのような目的で、近鉄の買収に名乗りを上げたか、嘘の事実でマネー社ほか複数の会社を買収したのか、株式100分割は株価つり上げ目的か、などはどれを取っても、人間の内心の意図である。

身体拘束の極限状況に負いこんでおいて、被疑者から自白を得る方法が文明社会において、許されるべきであるとは思えない。後日おこなわれる裁判において、取調べ中の自白自体が虚偽であり、供述の任意性が争われるのが毎回繰り返される裁判のパターンである。被疑者側にもストーリーが存在するのであり、真実の追求は必要ではあるが、もう一方で、長期間の身体拘束という事実上の拷問を与えたままの自白に頼る捜査は、もうそろそろ避けるべきである。

堀江氏による突然の近鉄買収の名乗りなどは、当初、そんなことが1ベンチャー企業に可能なのかと誰もが真意を疑ったが、結局、楽天の買収へとつながった。あっと驚く発想自体を偽計(うそ)であると決め付けるのは行き過ぎである。むしろ、このような斬新な発想は閉塞感の漂う日本社会にあって、貴重であるともいえる。

next:ライブドアの錬金術を法的に照らし合わせてみる…

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