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Q.全世界でサービスを提供するISPは国内法の影響を受けるのか?

大法廷の審理は仏人権団体に対する裁判管轄を認める

この第一審の地裁判決に対して、フランスの人権団体が控訴し、3人の裁判官で構成された第9巡回区連邦高等裁判所は、2004年8月23日、米国の裁判所は、フランスの人権団体に対して裁判管轄権を有しないとの逆転判決を下した

この判決には、2名の判事が賛成したが、残りの1名の判事は詳細な反対意見で裁判管轄権の存在を肯定する意見を述べたため、この判決は、高裁に属する全裁判官の合議で判断される大法廷の審理に回付されることになった。

それから、1年余の審理を経て、ついに、2006年1月12日、第9巡回区連邦高等裁判所の11名の裁判官で構成された大法廷の判決が出されたわけである。高裁は11名中8名の裁判官が、フランスの人権団体に対する裁判管轄を認めた。

さらに、多数意見中、紛争の事件性が存在しないと主張する3名の判事は、以下のように述べた。

「当初、ヤフーが、連邦地裁に提訴した時点では、ヤフーは、フランスの裁判所の命令に従って、ナチズムの言論へのフランスのユーザーからのアクセスを制限する措置をとっていなかった。しかし、その後、ヤフーは自主的にヘイトスピーチを禁止するようユーザーポリシーを変更したため、ナチズムを推進する大部分のオークションサイトは掲載されなくなった。フランスの人権団体も、ヤフーに対してペナルティの支払を請求する意思がないことを表明している」

「米国の裁判所は、条約締結などの特別の条件が満たされない限り、外国の裁判所の命じたペナルティの支払命令の執行を許可することはない。従って、米国において、ヤフーに対してペナルティの支払が強制される可能性は極めて小さい」

このように述べて、ヤフーに対する金銭的な負担が生じる可能性を否定した。さらに次のようなコメントを追加した。

「フランス裁判所の2件の仮処分命令は、ヤフーが、フランスに在住するインターネットユーザーによるアクセスを制限するよう命じたものであり、米国のユーザーによるアクセス制限を課していない。フランスの人権団体は、米国におけるフランス裁判所の仮処分命令の承認を求めているわけではない。本件では、逆に、フランスの裁判で敗訴したヤフーが、フランス裁判所の命令が米国において強制力を持たないという確認判決を求めて提訴したものである」

「ヤフーは、既に自主的に、フランス在住者がヤフーを通じて、ヘイトスピーチや反ユダヤ主義を象徴する物品について、アクセスすることを制限しており、フランス裁判所の命令の大部分を遵守している。さらに、原告であるフランスの人権団体が、フランスのユーザーによる、これらフランスでの禁制品にアクセスする可能性を排除するために、米国のユーザーのアクセス制限を求める可能性は、皆無とは言えないが、この危険性の程度は十分ではない。従って、言論の自由の制限に関して、現時点ではヤフーの主張する紛争の事件性が存在しない」

言論、宗教、女性の地位などの問題を国境を越えて裁けるか

一方、少数意見の5名の判事は、次のように述べて、多数意見に反対した。

「フランス裁判所の命令は、Yahoo.comを通してナチに関する物品ないしナチズムに関するサイトへのアクセスを禁止するあらゆる合理的な方法を取るよう命令したものであり、文言自体あいまいで過大に包括的であり、憲法で許容されない事前規制である。ユーザーを特定できるとしても、フランス在住者でAOLをISPとして利用している人は、AOLのネットワークの所在するヴァージニア州のIPアドレスを持っているかもしれない」

「専門家証人の意見でも、70-90%のフランスのユーザーを限定できるということだが、逆にヤフーでさえ、わずか70%のフランスユーザーしか把握できないということも言えるのである。フランス裁判所の命令により、ヤフーは、個人ユーザーの所在場所により、その提供するサービスのコンテンツにフィルターをかける技術を開発するコストが必要となったのであり、これ自体が現実的な財政負担であり、これだけでも事件性を認定するのに十分である」

「米国を基盤とするISPが、民主主義、宗教、女性の地位というような論争のあるテーマについて各国ごとに異なるコンテンツに対して、警察権を行使しなければならなのであろうか」

「ヘイトスピーチ自体は非難されるべきである。しかし、言論の自由を保障する連邦憲法修正第1条の下で、検閲は容認できない。本来自由な言論が、その内容の故をもって禁止するのは憲法違反である。外国の裁判所が、不履行に対する制裁を課して、言論の自由を制限する行為は、容認できないものであり、本件裁判において連邦裁判所の扉は開かれるべきものである」

「多数意見は、米国を基盤とするプロバイダーは、他の国のユーザーがアクセルすることができるコンテンツについて、外国裁判所の命令に服するために警察権を行使しなければならないという、新しくかつ困難な先例を作ることになる。したがって、多数意見には反対である」

国境のない通信手段を持つISPに試金石

結局、紛争の事件性が存在しないとする判事3名と、米国の裁判所はフランス人権団体に対する裁判管轄が存在しないとする3名の判事を合わせて合計6名が多数意見となり、6対5の僅差で、高裁大法廷はヤフーの控訴を棄却した。

さらに、ヤフーがフランス裁判所の命令を実質的に遵守しているか否かを審理させるため、地方裁判所に差戻した。従って、ヤフーは差戻し審で、再度、事実関係について、立証活動を行う必要がある。

この判決は、インターネットという国境のない通信手段を提供するプロバイダーにとっては、特に重要な判決である。フランスにおけるナチズムの広報禁止法以外にも、中国などアジア各国の国内法では、ある一定の政治的表現を禁止したり、言論の自由を制限するなどの法律が存在していることは厳然とした事実である。

このヤフーの事件は、米国が最重要の憲法原理として尊重してやまない言論の自由がテーマとなっているだけに、目が離せない。今後とも慎重に事件の推移を見守りたい。

鼎 博之(かなえ ひろゆき)
国際取引、企業法務、M&A、技術援助、ソフトウエアライセンス契約、ジョイントベンチャー、知的所有権を専門とし、第二東京弁護士会紛議調停委員会副委員長、国際交流委員会副委員長、常議員、綱紀委員などを歴任。ニューヨーク州での弁護士資格もあり。著書には、「会社役員の仕事」(共著、中央経済社・2003年)「Q&Aでわかるネットビジネス法律相談室」(共著、日経ネットビジネス・2000年)「電子商取引に関する日本の法制度」(共著、コマースネット ジャパン・1999年)ほか著書多数。新東京法律事務所所属。
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