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Q.「電車男」に代表されるネットの書き込みの著作権はどう扱われる?(2005/04/25 鼎 博之 弁護士)
第2問: Blog(ブログ)や電子掲示板の投稿原稿をまとめた本の出版が活況を呈しています。ブログや投稿原稿の著作権はどうなっていますか。またハンドルネームのように本名でない署名でも著作権は認められるのですか。 A.: IPアドレスが特定されればハンドルネームにも著作権 第1問で述べたように、個人が設定した実名または変名のブログでは、そのブログの創作者が、著作権者であることが明確であり比較的問題は少ない。しかし、このようなブログ以外に、電子掲示板上で、興味のあるジャンルでホットな論争が交わされている。 このようなネット上の情報交換が盛んであるが、電子掲示板で100万ヒットを超えたという人気サイトに掲載されたアキバ系独身男の恋愛物語の小説「電車男」(新潮社発行)が55万部を超える大ヒット作となっている。この作品は、電車内の酔っ払い爺さんの暴行に対して身体を張って止めた仮称「電車男」という匿名の独身男性と、たまたま同じ車両内に乗り合わせた若い女性との出会いを2ちゃんねるのスレッド(掲示板)に書き込んだことから始まる物語である。 この作品の特徴は、1人の創作者が、文章を創作するのではなく、電車男が、この事件に遭遇した女性との交流を掲示板上に日記風に書き込むとともに、ネットに集まる無数のネートユーザである投稿者が、様々な情報を分刻みで発信し、物語が進行していく点にある。たとえば、「電車男」が、被害者の女性の1人から、「HERMES」の2個のティーカップをプレゼントされた後、どのような返事をすべきか、アドバイスを求める場面がある。「電車男」は、手紙を出すべきか、それとも電話をかけるべきか、様々に思い悩んでいると、匿名の投稿者から、「とにかく今すぐ電話しろ」というメッセージが書き込まれる。「電車男」は、震える手で電話をした後、その結果を書き込むという具合に、登場人物の行動に対して投稿者が同時刻で参加するという風に事実が進行していくのである。 匿名の投稿者がネットで参加する場合の著作権とは「電車男」のように、匿名の投稿者に対して、別の匿名の投稿者がネットを使って参加していく形式の文章は、著作権の見地からはどのように取り扱われるのであろうか。 著作権法は、「著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定している。「思想または感情」という語は、もちろん壮大な哲学的思想のみに限るわけではなく、日常的な生活のなかでの思索や考えを表現した文章も著作物の範囲に入る。小説、脚本、詩、論文、随筆など、一般的に、思想を表現するものが文芸であり、感情を表現するものは美術や音楽と言われる。だが、感情を表現する文芸もあるわけで、特に、思想と感情の区別に差異があるわけではなく、思想と感情を区別する実益もない。また、単なる事実やデータそのもの、または思想または感情の表現ではあっても創作性のないものは、著作物とはいえない。 従って、上記の「電車男」のスレッドにおける匿名の書き込みは、独創性があり、単なる感嘆詞の連続などでない限り、立派に著作物に該当することになる。さらに、「電車男」の質問に対して、アドバイスをおこなう投稿者の書き込みも、各人の「考え」を記載したものであり、著作物に該当する事自体は否定できないと思われる。投稿者の書き込みで特徴的なのは、不特定多数の参加者が、時には質問をしたり、これに回答したりというように、複雑にからみあっていると言う点にある。 「電車男」の独り言だけでは到底物語は進行しないし、読者の共感も得られない。これは、まさにネット上における討論会であったり、共同作業であったりするのであり、一人の創作者が小説を創作するのとは異なり、個々の著作者が複雑に交錯している状態といえる。したがって、まさにこれは「二人以上の者が、共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」(著作権法2条1項12号)であるので、共同著作物に該当すると思われる。 ハンドルネームでも著作者となるのか次に、著作者について検討してみよう。著作者とは、著作物を創作する者をいう(著作権法2条1項2号)。そして、上記の「電車男」の投稿者達は、主人公である「電車男」と一緒に「電車男」の恋愛が首尾よく進行するようにアドバイスしたり、時には討論したりする形式で事件の進行に参加している。しかも、いつも同じ参加者が参加している訳ではない。また、上記の投稿者達が絶妙のアドバイスを行い、また新たな展開が開始されるという具合である。したがって、複数投稿者による書き込みは、「二人以上の者が、共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」を創作する共同著作者ということができる。 そして、著作者が、著作物に関して著作権法に規定する諸権利を享受するためには、著作権法上、単に創作したという事実があれば足りるのであり、登録や納本などの一定の形式を整える必要はない。(c)表示や、著作者名の表示は不要である。これを「無法式主義」という。 著作者は、通常、実名、変名、ペンネームなどで自己の創作した創作物を発表することも多いので、もし、変名やハンドルネームであっても、創作者が明確に特定できる場合は、その著作者を明確にすることも可能である。しかし、掲示板の中でも、Webサイトにおける匿名投稿は、もともと匿名を前提としたものであるので、個々の創作者を特定することは困難である。また、フリーメールアドレスが多く利用される現状では、IPアドレスを元に投稿者を探し出すことも、困難なことが多いことも事実である。したがって、掲示板の投稿原稿の著作者を特定することは、不可能ではないにしても、必ずしも容易なことではない。 ブログにおける著作者の権利とは次に、著作権者は、いかなる権利を有することになるかを検討してみよう。 著作権には様々な権利が含まれているが、特に、ブログについて言えば、「複製権」、「翻案権」、「送信可能化権」を含む「自動公衆送信権」などが問題となる。 複製権とは、文字通り、原作である著作物を印刷、複写、録画その他の方法により、有形的に再製することをいう。ブログを他のブログに転載すること、印刷することなどにより、同一のものを再製する行為を指す。また、翻案とは、元の著作物を翻訳以外の方法で改作する行為を指す。さらに、インターネット特有の行為として、送信可能化権がある。これは、公衆の用に供されているサーバに一定の情報を記録・入力し、公衆の求めに応じて、自動的に送信が可能な状態に置く行為などを指す。また、複製権を有する者は、その著作物を文書または図画として出版を引き受ける者に対し、出版権を設定することもできる(著作権法79条1項)。 さらに、著作者には「著作者人格権」と呼ばれる一連の権利が存在する。これは、上記の複製権のように、どちらかというと財産権的なものと異なり、「公表権」、「氏名表示権」、「同一性保持権」などの人格的・精神的な利益に関係する権利である。公表権とは文字通り、著作物を大衆に公表するか否かを決定する権利であり、氏名表示権とは、著作物の創作者たることを主張し、著作物に氏名を表示するか否か、表示する場合に、いかなる表示をするか否かを決定する権利をいう。さらに、同一性保持権とは、著作権の完全性を保持し、無断で改変、削除その他の行為をすることに対して異議を申し立てることができる権利をいう。 ブログは、特に氏名を明らかにして、意見を発表する場合を除き、変名または匿名で発表される場合には、上記の著作者人格権のうち氏名表示権を放棄したものとみなされる場合が多いと思われる。しかし、それ以外の同一性保持権などの著作者人格権は保持しているので注意が必要である。また、電子掲示板における匿名投稿原稿であっても、ログのIPアドレスの検索が可能である場合で、著作者が自己の著作であることを証明することができる場合には、匿名投稿者の著作物である投稿原稿に対する著作権を認めることができる場合もあると考えることもできる。 以上の通り、ブログの著作者は、著作権法上認められた様々な権利を有することになるが、匿名の掲示板における投稿原稿の場合には、原著作権者を特定することは困難である。この掲示板の場所を提供したWebサイトの運営者が、第二次著作物の著作権者として、ある程度原著作物を改作したり、出版権を設定したりすることも許容されると考えることも可能であろう。 ブログの隆盛という社会現象および電子掲示板は、草の根情報源を可能としたもので、通常の一般人がブロッガーとして、あるいは掲示板の投稿者として情報の発信源になりうるということを可能にしたものというべきであろう。その中でも「電車男」は、何百という匿名投稿者の声援のお蔭で、恋愛を成就させたが、同時に自己の思惑とは異なり、結果として大ヒット作となった著作物を本人の自覚なく創造したともいえよう。 鼎 博之(かなえ ひろゆき)
国際取引、企業法務、M&A、技術援助、ソフトウエアライセンス契約、ジョイントベンチャー、知的所有権を専門とし、第二東京弁護士会紛議調停委員会副委員長、国際交流委員会副委員長、常議員、綱紀委員などを歴任。ニューヨーク州での弁護士資格もあり。著書には、「会社役員の仕事」(共著、中央経済社・2003年)「Q&Aでわかるネットビジネス法律相談室」(共著、日経ネットビジネス・2000年)「電子商取引に関する日本の法制度」(共著、コマースネット ジャパン・1999年)ほか著書多数。新東京法律事務所所属。
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