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「洋書の顧客と英語学習人口をフック」――  賀川 洋 日本洋書販売社長兼CEO

洋書の朗読音声サービスで英語のヒアリングを支援

(取材・文=佐保 圭 写真=シャノン・ヒギンス)
賀川 洋 日本洋書販売社長兼CEO
【プロフィール】 賀川 洋(かがわ ひろし)
1955年12月大分県生まれ。九州大学卒業後、81年に講談社インターナショナルに入社。83年からニューヨーク駐在し、88年に独立。92年に編集プロダクションICGを設立し、マンハッタンにオフィスを構える。98年にペーパーバックなどを扱う洋書取次業界2位のタイトル商会の経営権を取得。2003年6月に業界1位の日本洋書販売配給(洋販)を買収。社名を日本洋書販売として新会社の社長に就任。2004年9月に営業中止に追い込まれた青山ブックセンター(ABC)の再建で注目を浴びる。

青山ブックセンターの再建で一躍名をはせた洋書取次販売業界1位の日本洋書販売(洋販)が、7月末にサイトを立ち上げ、新たなビジネスをスタートさせる。プロジェクト名は「洋販スタディ」。初期段階のビジネスの中心は、同社によって独自に開発・出版された書籍の英語朗読音声の有料ダウンロード・サービスだが、最終的な狙いは「洋書の顧客と英語学習人口をフックさせること」だという。年末までには、ユーザーがネットで自らの発音を採点できる語学学習機能を追加し、近い将来にはビジネス・コンサルタント事業との提携なども視野に入れているという。このユニークかつスケールの大きなビジネス・モデル「洋販スタディ」について、洋販の賀川洋社長兼CEOに聞いた。



――「洋販スタディ」を一言で表現すると?

その名の通り、利用者の「書斎(study)」となるバーチャル空間をネット上で提供するサービスです。

――具体的には、どのような内容になるのですか。

初期段階のメインのサービスは、洋書の音声サポートです。洋販は、20代から40代の英語学習ビギナーを対象とした「新ラダー・シリーズ」を8月初めをめどに48タイトル発行する予定です。「洋販スタディ」では、このシリーズすべての英語朗読音声の有料ダウンロード・サービスを提供します。

――書籍の朗読音声のダウンロード・サービスとしては、すでに「オーディブル」が実績を伸ばしています。競合他社のサービスと「洋販スタディ」の違いは何ですか。

「洋販スタディ」の目的は、ただ単に英語の朗読音声を提供するのではなく、あくまでも「洋書の顧客と英語学習人口をフックさせること」です。洋販は毎月約40万冊の洋書を市場に出しています。ひと月にのべ40万人の洋書購入者がいるわけです。また、我々の調査結果では、洋書購入者の約8割が日本人です。その中には、英語の学習を目的とした方が数多く占めていると予測されます。ところが、これまでは「洋書の顧客」と「英語学習者」とのフックがなされてこなかった。ですから、同じ洋書の朗読でも「英語学習を目的とした洋書」の朗読音声という点に価値があるわけです。

――「英語学習を目的とした洋書」とは、具体的にどのような特徴を持つのですか。

「新ラダー・シリーズ」では、自分の英語力に合ったレベルが選べます。使用単語が中学校で習う1000語の範囲で書かれているもの、つまりTOEICなら300点以上、英検なら4級以上の英語力で読めるものを「レベル1」とし、使用単語約1300語(TOEIC350点以上、英検3級以上)の「レベル2」から、使用語彙(ごい)無制限のもともと優しい原書ないし日本人向けに書かれたオリジナルなど(TOEIC470点以上、英検2級以上)の「レベル5」までの5つのレベルに分かれています。また、巻末には、レベル1には全単語、レベル2以上では、中学で習う1000語からはみ出した単語全ての豆単がついていますから、辞書を引く必要もありません。レベル1にはマーク・トウェインの『トム・ソーヤの冒険』や芥川龍之介の『鼻』、レベル5ならジャン・ジオノの『木を植えた男』や養老孟司の『バカの壁』など、和洋取り混ぜているのも特徴です。

自分の英語力に合ったレベルのタイトルが選べる「新ラダー・シリーズ」。ジャン・ジオノの『木を植えた男』や養老孟司の『バカの壁』など、和洋取り混ぜているのも特徴

――そのサービスを利用する際の費用や時間は、どれくらいですか。

1冊丸ごとの朗読音声のダウンロードで数百円程度を考えています。時間は、ブロードバンド環境の場合、「thの発音」や「LとRの区別がつく」ほどの高音質で1時間もの1冊が2~3分でダウンロードできます。ダイヤル・アップをご利用の方には、ダウンロード時間の短縮のために音質を若干落としたバージョンも検討中です。

また、英会話学習も意識していますので、最新の音声認識システムを活用し、ユーザーが自らの発音をゲーム感覚で採点できるサービスも年内にスタートさせられるよう準備を進めています。

数百円程度の料金で、1冊丸ごとの朗読音声のダウンロードサービスが受けられる。

――英会話学習という点でNOVAなどの英会話学校との違いは何ですか。

英会話学校は英語学習を会話から始めますが、「洋販スタディ」の場合は書籍(洋書)から英語の世界に入るので、もっとトータルに、英語圏の文化やコンテンツに触れながら英語や英会話を学べます。また、いきなり英語で話すことに抵抗を感じる人には、自信がつくまで楽しみながら一人で学べる「洋販スタディ」の方が合うのではないでしょうか。

「洋販スタディ」の最大の特徴はバーチャルなネット上の「書斎」であることです。このサイトを訪れた人は、まず、新ラダー・シリーズの朗読音声で英語のヒアリングの学習をします。でも、勉強ばかりでは飽きてしまいます。そこで、ちょっと目先を変えて英語雑誌の朗読音声を楽しんだり、洋販の膨大な洋書ライブラリーの中から気になるものを選んでトライするなどの気分転換や気張らしができるのも「洋販スタディ」ならではの魅力となるでしょう。

もちろん、それらの雑誌やライブラリーの書籍の販売も行います。

――アマゾン・ドット・コムと競合するわけですね。

「洋販スタディ」はアマゾンとは違います。アマゾンはダイレクト・ショップですから“B to C”ですが、「洋販スタディ」は“B to C”でも“B to B”でもない。“B(洋販) to B(書店) to C(顧客)”。ですから、売り上げは必ず書店につけていきます。

――中抜きした方が利益は上がるのではありませんか。

それだと第二のアマゾンを作るだけです。国内の約2000店舗の書店というネットワークを使った方が、はるかにビジネスにユニークさが出ます。それに、近所の書店での商品のピックアップの際の返品を可能にすれば、顧客は実際に手に取って購入を吟味できるようになる。これも強みになりますよ。

――ネットで稼ぐのではなく、ネットはあくまでも「顧客を書店へと呼び戻すツール」として活用するわけですね。

「洋販スタディ」が目指すところは、英語や英会話の学習サイトではありません。むしろ、英語学習者というよりも、海外に出て行って仕事をしたい人やグローバルなポジションに自分を置きたい人のための橋渡し的なサイトを目指しています。

例えば、アメリカのクライアントと商談する場合、単なる英会話の習得だけではタフな交渉をこなせません。ビジネス英語の習得のために「洋販スタディ」を訪れた人で、より実践的な英会話技術を求める人には、日米の商習慣の違いに精通した専門のコンサルタントを「洋販スタディ」のポータル・サイトとして紹介する計画なども進めています。

さらに、掲示板やブログを活用し、ラダー・シリーズや雑誌、洋書ライブラリーの書籍に対する感想や質問などの積極的な情報交換の場を創出することで、「洋販スタディ」に新たなコミュニティを形成するのも重要な目標の一つなのです。

――ところで、「洋販スタディ」への集客は、書店で新ラダー・シリーズを購入した顧客だけですか。

いいえ、ここでも、我々独自の強みが発揮できます。先ほども言いましたが、洋販では毎年40万冊を市場に出しています。その1冊1冊に「洋販スタディ」の宣伝の書かれた栞(しおり)などを挟めば、それだけで40万通のダイレクト・メールになるのです。また、我々が経営する青山ブックセンターでは、毎年30万~40万人のお客様がレジの前を通る。その他のチェーン店全体で考えれば100万人を超えます。そこでチラシを手渡してもいいし、袋にメッセージを書いてもいいんです。

――では、最後に「洋販スタディ」の展望についてお聞かせください。

例えば、メキシコからアメリカにやってきた人たちで「母国語のスペイン語は話せるけれど、英語はほとんどしゃべれない」という人もいます。このように「アメリカ在住だけれど英語はセカンド・ランゲージ」という人たちは大勢います。そのような人たち向けにラダー・シリーズを作り直して、アメリカ版「洋販スタディ」も運営できるようにしたい。

そうすれば、日本の「洋販スタディ」と結びつけることで「英語でのコミュニケーションを習得したい人の国境を越えたグローバルなコミュニティ」も実現できるかもしれません。

佐保 圭
フリーライター。1964年兵庫県生まれ。インタビュー記事を得意とし、『日経ビジネス』や『日経ベンチャー』(ともに日経BP社)、『文藝春秋』や 『週刊文春』(ともに文藝春秋)、『大人の科学』(学習研究社)などで活躍中。
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