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“明るいおカネ第一主義”の伝道師 ライブドア社長 堀江貴文〜その3

(2005/03/06 取材・文=石井信平、写真=菅野勝男(ライブワン))

バリバリやります!

私は彼を、メチャメチャ財務に詳しい「ネット・オタク」と呼びたい。ライブドアの財務担当、丹澤みゆきは「うちの社長はおかしな数字はすぐに見破ります」と語る。

ITバブルがはじける直前に上場して得た数十億円の資金で企業を買収し、コストに厳しい堀江の下、買った企業の収益性を上げる繰り返しで、事業を多角化した。03年、監査法人トーマツが収益成長率を基にテクノロジー企業を顕彰する「日本テクノロジー Fast50」のベストテンにランク入りする。

彼はインタビュー中も手元の携帯電話の画面に時々目を落とす。一日5000通も受けるというメールを、こんな時でも見ているのだろうか。しかし、質問の言葉を一言も聞き逃していない。一度だけ私の質問に気色ばんだことがあった。ライブドアに番頭はいるか、と私は聞いた。

「それって、経営の現場を仕切る人間はいるのか、という意味ですね? 昔、呉服屋では番頭が切り盛りして、当主は世襲でボンクラ。つまり、お前はボンクラか、って聞かれたみたいだな。僕は、将来ビジョンを提示しつつ、同時にバリバリ現場でオペレーションをやるのが社長だと思っています。単純に気持ちの切り替えですよ。いまだに10万円以上の稟議書には全部目を通しています」

ベンツで移動中
ベンツで移動中。雑誌は週に20冊程、目を通す

社長業を始めて9年。社長室はない。窓際で社員と同じスチールの事務机に向かう。今日のランチタイムは、秘書が買ってきた弁当を自席でかきこむ。社内を歩いても、すれ違う社員は挨拶もろくにしない。Tシャツ姿の社長は偉そうじゃない。しかし、彼は今や31の連結会社で、総計1800人の雇用を創出している。

私は八女を追憶する。堀江とは、例えれば八女の矢部川にいる「ギギ」という魚だ。ヒレに毒を持ち、刺されると半日はズキズキ痛む。「あいつはギュギュたん」と言えば、一筋縄ではいかぬという意味だ。

八女の飲み屋「やま奇人」に、地元でネット関連の仕事をしている30代が数人集まった。彼らは金がない、コネがない、チャンスがない。店主の山本典由が聞く。堀江さんのこと、どげん思うねー? 「ガバ凄かー、みんなが腹で思ってることを口にしてくれた」、「仙台進出を楽天にさらわれた後のアッサリ感、かっこよかー」。

ひょっとすると堀江は仙台に見果てぬ「ふるさと」を作ろうとしたのではないか。そして、日本の若者達は——故郷、共同体、伝統、家庭、あらゆるものから断ち切られて浮遊する若い世代は、すがるべき「ノアの箱舟」を堀江に感じ始めていないか。

30歳過ぎた大人をガキ扱いする日本社会は、同時に、膨大な数に上る30歳過ぎの「引きこもり」や「ニート」を抱えて立ち往生している。堀江はそのような社会で「異物」であり続ける。

堀江貴文氏4面

危うさはある。堀江の資産は、すべて株価次第。去年、堀江はイーバンク銀行との紛争と「株式100分割」で、証券業界から批判を浴びた。だが、そんな業界内台風ではなく、マスメディアが、いつ本格的な「堀江叩き」に転じてもおかしくない。既得権益に守られ、競争がない分野に「新規参入」を狙う彼は、メディアも狙っている。彼はいずれマスコミにとって危険人物になる。旧世代に反抗する若武者と、持ち上げていられなくなる。

「叩かれても気にしないけどガマンはしない。」ホリエモンだってさるもの、ひっかくものだ。孤立や孤独には、幼児期から滅法強い。今は、一人自宅で、ハムとベーコンを作るのが至福のひと時だ。レシピは、「冷戦」を解消した旧友Nから教わった。おいしいものに目がない。おいしいものを目の前にして、絶対にガマンしない。おいしいビジネスも「ゼンブいただき」だ。

社内会議が深夜に及んだ。退社する彼と一緒にエレベーターを降りた。

「あらゆるリスクに対する手は打ってあります」

そう言いながら彼は車に乗り込んだ。六本木ヒルズ駐車場から、黒塗りのベンツが夜の闇に消えた。いつ、どこで浮上するか分からない潜水艦のように、テールランプがかき消えた。(文中敬称略)

堀江貴文氏後ろ姿
堀江貴文 Takafumi HORIE
1972年福岡県生まれ。東京大学文学部中退。在学中の96年、オン・ザ・エッヂを設立。2000年4月、マザーズ上場。03年、エッジに社名変更。04年、ライブドアに社名変更。「ライブドア」は元々、02年に民事再生法を申請した無料プロバイダの社名。当時のオン・ザ・エッヂが営業譲渡を受けた

※この記事は日経ベンチャー2005年2月号に掲載されたものです。取材が行われた2005年1月現在の内容となります。

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