うつ病Q&A
うつ病Q&A

自由業 男性
うつ病は今後、どのように進化していくのか、木下先生のお考えをお聞かせください。また、予防のトレーニング方法があれば、教えてください。

シンポジウムでもお見せしましたが、アルブレヒト・デューラーが1514年に描いた「メランコリアI」という銅版画があります。うつ病を描いた最も有名なものの1つです。ヨーロッパにおけるうつ病概念は、ルネサンスを経て劇的に変化しました。ルネサンスはイタリアのメディチ家の支援を受け花開いた芸術復興・文化革命ですが、古代ギリシアや古代ローマの学問・知識の復興を唱えたものです。デューラーはイタリアに赴き、メディチ家お抱えの哲学者マルシリオ・フィチーノの提唱した新プラトン主義に大きな影響を受けたものと考えられています。

ルネサンス以前は「憂鬱質」は、土星すなわち土と関係があり、金貸しや墓堀人などの卑しい人々が罹患する病気と考えられていましたが、フィチーノがその概念を一変しました。フィチーノはもともと医者で、プラトン主義を深く研究し、土星に支配された人間は土の中心に向かうように思索に向かうと解釈しました。すなわち「憂鬱質」は学問や思索と深い関係を有し、選ばれし人が学問や思索に打ち込んだ後に、ある種の休息を得るための状態と解釈したのです。

さらにデューラーは、「憂鬱質」の魂の上昇にも深い関心を寄せていたようです。黒胆汁気質は非常な力があり、「想像力」「理性」「叡智」の3段階の作用を経て、最終的には天使の域に達すると考えていたようです。メランコリア・タイプの「うつ病」は、このような概念を基礎に持っています。

精神科疾患はうつ病に限らず、文化的変遷と密接な関連を有しています。戦後日本が荒廃の極みから奇跡的な復興を遂げました。それを可能にしたのは、日本人の勤勉さ、正直さ、几帳面さ、強迫性などの気質が大いに関係しています。このような気質は、またメランコリア・タイプのうつ病の発生に関係していたのです。しかし繁栄の頂点を極め、今度は衰退に向うのですが、当然のこととしてうつ病も変化するようです。

うつ病概念が異常な広がりを見せ、「未熟型うつ病」や「ディスチミア親和型うつ病」といわれるようなタイプが増えています。このようなうつ病の基礎にあるものは「未熟さ」です。今後のうつ病は、やはりこの未熟さがより顕著になるものと思われます。症状としては、うつ病と神経症の垣根がますますなくなり「これ本当にうつ病かな?」というようなうつ病が増えていくと思われます。

予防の方法はありません。おのおの個人の「成熟」を高める以外、方法はないのではないでしょうか。