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竹林篤実のうつ病ブックレビュー
ここまで来た!うつ病治療

 うつ病と診断され、薬物療法や精神療法を続けているのに、一向に良くならない。そんな人は一度「双極性障害」を疑ってみるべきだ。双極性障害とは、かつて「躁うつ病」と呼ばれた、うつ状態と躁状態を繰り返す病気である。

 双極性障害には I 型とII型がある。いずれも躁状態とうつ状態を繰り返す点は同じだが、躁状態の程度が違う。 I 型の場合は躁状態が激しく「人間関係や仕事で大きなトラブルを起こしたり、自分や他人を傷つけるおそれがある(本書/P12)」。従って、まず周囲が「おかしい」と気づく可能性が高い。

 これに対して、II型の躁状態は「高揚した状態が4日以上続いている」程度で「周囲に迷惑をかけたり、職を失うほどではなく、入院を要する(本書/P12)」こともない。言い換えれば、特に目立った躁状態にはならないわけで、これが問題を引き起こす。

 まとめるなら、うつ病、双極性障害 I 型II型共に、うつ状態の様子はほとんど同じである。一方で、躁状態に関しては、うつ病にはなく、双極性 I 型は激しい躁状態が見られ、双極性II型の躁状態は極めて軽い。その結果、うつ病の人が少し気分が良くなった状態と、双極性II型の軽い躁状態の違いが簡単には見極められないのだ。

 そもそも患者本人が、軽躁状態を「今日は快適だ」ぐらいにしか思っていないケースが多い。軽躁が病気だという自覚を持っていないのだから、気分が良い日にわざわざ診察に行くこともない。すると医師が目にするのは、双極性障害の患者のうつ状態の姿だけになる。そのために本来なら双極性障害と診断すべき患者を、うつ病と誤診する危険性が出てくる。

 ところがうつ状態こそ同じように現れるものの、うつ病と双極性障害は、本質的にまったく異なる病気である。当然、治療法も違ってくる。にもかかわらず、双極性II型がうつ病と診断されるとどうなるか。

 うつ病同様に双極性障害も薬物療法を行うが、使う薬は気分安定薬である。ところがうつ病と誤診された場合は、抗うつ薬や抗不安薬が処方される。これでは薬が効かないだけならまだしも、逆効果になる恐れが出てくる。

 「うつ病の治療で使われている三環系抗うつ薬を双極性障害の患者さんに使うと、うつ状態から急激に躁状態に転じる『躁転』や、1年間に4回以上も躁状態やうつ状態などがあらわれる『急速交代化』を引き起こすことが知られています(本書/P60)」。

 抗不安薬についても依存症になるリスクがあり、しかも明確な効果が証明されていない。つまり最初の診断で間違ってしまうと、使うべき薬を誤ってしまう可能性が高くなる。抗うつ薬を使っても双極性障害には効かず、むしろ副作用のリスクが高まる。いつまで経っても良くならないばかりか、症状が悪化するおそれがある。

 双極性障害は、自殺のリスクも高い。「双極性障害は自殺を企てる人がうつ病よりも多く、精神疾患の中で最多なのです。海外での追跡調査では、亡くなった双極性障害の人のうち、約5人にひとり(19.4%)が自殺だったという報告もあります(本書/P34)」。

 正しい診断が求められるのだが、うつ状態の時しか接することのない医師が見極めることは難しい。だからこそ周囲の力が必要になる。

 躁状態の激しい I 型はともかくとして、軽い躁状態がうつ病の気分の良い時と誤解されがちなII型に関しては、まわりの目でチェックしてあげることが大切だ。身近にうつ病で悩んでいる人がいれば、その人が躁状態になっている時がないかどうかを、ぜひしっかり見てあげてほしい。

 もとより双極性障害も決して治らない病気ではない。まずは正しい診断を受けることであり、症状に適した薬を使うことだ。正しく治療すれば症状をおさえることができ、以前と変わらない生活を送ることができる。