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竹林篤実のうつ病ブックレビュー
ここまで来た!うつ病治療

 うつ病は、いま医学界で最もホットなトピックスの1つだ。これを受けて2011年から文部科学省の国家事業として「精神・神経疾患の克服を目指す脳科学研究」がスタートしている。

 「この研究は、全国でさまざまに行われているうつ病の研究を統合して、体系化しようというものだ。<中略>膨大なデータを演算能力の高いスーパーコンピュータに全て入れて計算させることで、どの治療がどんな患者に有効なのか、弾き出そうとしているのだ(本書/P211)」

 研究が進んでいるのは、もちろん日本だけではない。患者数が日本の何倍にもなる米国では、新しい治療法が開発され臨床の現場が使われている。本書では米国で行われている最新の治療法を2つと、日本でも実用段階に入ってきた新たな診断法が1つ紹介されている。

 米国で開発された治療法とは、経頭蓋磁気刺激(TMS)と脳深部刺激(DBS)である。いずれも電磁機器を利用して脳の深部に直接刺激を加えることと、抗うつ薬に頼らないことが特長だ。

 TMSは、脳に装着したコイルから磁気を発射し、脳内に電流を作り出す。この電流によって、脳の特定部位を刺激してうつ病を治す。「磁気刺激に使うこの装置は、08年の10月に米国食品医薬品局(FDA)によって、うつ病治療のために使うことが認可(本書/P19)」されている。

 この政府お墨付きの治療法により、既に100人以上の患者を治療した医師がニューヨークにいる。これまでありとあらゆる抗うつ薬を服用しても一向に効果の出なかった患者が、TMSによって完治するケースが出ているのだ。

 TMSの治療効果は高く、受診した患者の7割ほどが回復しているという。噂を聞きつけて、交通費と高額な治療費をかけてでも受診したいと、日本から赴く患者も出始めているほどだ。

 一方、DBSは、手術で脳の中に電極を埋め込み、脳の奥の方の特定部位を刺激する。シリコンチューブに覆われた電極を脳に挿入し、これにつながるワイヤーをもう一方の端でバッテリーにつなぐ。小型のバッテリーは胸に埋め込まれ、脳に常に刺激を与え続ける仕組みだ。

 刺激を与えるターゲットは、近年注目を集めている「25野」と呼ばれる脳の領域である。「この25野、今ではうつ病に関わる重要な領域とされ、世界中で研究者の注目を集めているのだが、その機能がわかってきたのはごく最近のことだ(本書/P63)」。

 25野を刺激するDBSの優れている点は、手術後直ちに効果があらわれること。多くの患者が、麻酔が切れた瞬間から気分の改善を実感するという。

 一方で難点をあげるとすれば、胸に埋め込んだバッテリーを定期的に交換しなければならないことだろう。とはいえ20年間もうつ病に苦しんできた人が、手術後は一度も症状がぶり返さず副作用もまったくない点は注目に値する。

 新たな診断法として紹介されているのが「光トポグラフィー検査」だ。これは「問診が中心だったうつ病の診断に科学的検査を導入する目的で、群馬大学や東京大学を中心に研究が進められ、2009年に厚生労働省から先進医療に認定された(本書/P94)」。

 光トポグラフィー検査を使えば、うつ病診断の大きな問題となっている双極性障害の誤診を防ぐことができる。米国の調査では「初診でうつ病と診断された患者を改めて調査したところ、そのうちのなんと41.4%もの人が双極性障害、いわゆる躁うつ病だったことが判明(本書/P90)」している。

 誤診が多い理由は、双極性障害の患者は「うつ状態」の時しか診察に来ないことに尽きる。その時にDSMに従った診断を行えば、ほぼ100%「うつ病」と診断される。あえて患者が言わない限り、目の前の患者に躁の状態があることを医師は想像できない。そのために誤診が起こる。この誤診を防ぐ装置として光トポグラフィー検査は期待されているのだ。

 デバイスラグなどの問題もあり、日本ではまだTMSやDBSなどの最新治療を受けることができない。けれども、うつ病が起こる際の脳内のメカニズムが解明されつつあり、新しい治療機器の開発も進んでいる。薬にプラスαの治療法を組み合わせた新しいうつ病治療が、日本でも早く開始されることを期待したい。