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竹林篤実のうつ病ブックレビュー
「新型うつ病」のデタラメ

 「現代型うつ病」「未熟型うつ病」「ディスチミア親和型うつ病」……。さまざまな呼び方をされる病態の総称が「新型うつ病」である。これが今、大きな社会問題となっている。

 うつ病の診断は、基本的に精神疾患に関する国際的なガイドライン『DSM』に基いた問診で下される。ということは、患者が事前にDSMを読んでおけば、自分を病気であると誤診させることが可能だ。

 なぜ、そんなことをするのか。「障害年金」+「うつ病」でネット検索をかけてみればわかる。

 検索結果を示すと(Google検索/2012年8月22日時点)、「障害年金をうつ病で申請する」「うつ病の障害年金の診断書を書いてくれる病院を探しています」「うつ病、そううつ病(双極性障害)で障害年金がもらえる」「うつ病で障害年金を年間216万円貰う方法」と続く。うつ病と診断されれば、障害年金をもらえるのだ。

 もちろん、本当に「うつ病」で闘病生活を送り、働くことのできない人がいる。障害年金は本来、そうした人たちのための制度だ。ところが制度が悪用されているとすれば、どうなるか。

 また企業に勤めていれば、うつ病で休職しても傷病手当金を受け取ることができる。そのためには医師の診断書が必要だ。自分に都合の良い診断書を書いてもらうためのノウハウが、出まわっている現状をどう考えるか。

 現役の医師として診断書作成を求められる著者は、本来の「うつ病」とはいえない患者が増えていることを問題視する。「従来型うつ病」と「新型うつ病」の人には明らかな違いがあるのだ。

 違いは、例えば、周囲の人たちに対する態度のとり方であり、仕事への向き合い方だ。「従来型うつ病の人は、『自責的』で、自分を責める傾向があるのに対して、新型うつ病の人は、『他罰的』で、他人を責める傾向があります。(中略)従来型うつ病の人は仕事をなかなか休みたがらず、休職を勧めてもなかなかウンと言わないことが多い。これに対して新型うつ病の人は、自ら休職を求めてきます(本書/28P)」

 著者は「『新型うつ病』を、逃避的な傾向によって特徴づけられる、抑うつ体験反応のこと(本書/70P)」と定義付ける。そして、現状の最大の問題は「抑うつ体験反応と呼ぶのも気が引けるような人が、外来に現れるようになって(本書/P74)」いることだ。

 なぜ『新型うつ病」は生まれたのか。その理由を著者は3つ挙げている。医師の診断力の低下、抗うつ薬SSRIの出現、そして現代人の精神力の低下だ。

 米国で開発された診断基準DSMが普及した結果、病気が生じた理由や症状の質的側面が、診断上の問題とはされなくなった。一方で薬剤適応や病名記載はDSMに基づくよう求められる。これに伴い「精神病理学という学問自体が急速に衰退していきました(本書/80P)」

 続いて副作用が少なく服用しやすい抗うつ薬SSRIが登場した。そのため従来なら「副作用が心配で投与をためらっていたような軽い抑うつ状態に対しても、あまり心配せずに投与できるようになった(本書/P85 )」。しかも「SSRIを保険診療の枠内で処方するためには「うつ病」または「うつ状態」という診断をつけなくてはならない(本書/P87)」

 こうした状況に追い打ちをかけているのが、現代人の精神力の低下だ。「新型うつ病」の特徴の一つとして「自己愛の肥大」を著者は指摘する。「自分自身に過剰に意識が向くために、自己憐憫が習慣化し、傷つきたくないあまり安易に逃避してしまう(本書/P91)」のだ。ちょっとしたストレスで精神的に落ち込み、いとも簡単に自分がうつだと思い込む。

 臨床の最前線で「新型うつ病」を主張する患者と向い合う著者は、「診断書の作成にあたっては、治療上適切であるとともに、社会的にも道理にかなった判断が、医師に求められている(本書/P107)」と主張する。

 医師が社会的道理までを判断すべきなのか。そんな反論が出ることを承知のうえで、著者はあえて問題提起しているのだろう。その背景には、安易に診断書を出す医師の存在があるはずだ。

 医師はもちろん、企業も、患者の周りにいる人たちも「新型うつ病」の本質を知り、相手によっては毅然とした態度をとるべきだ。それが本当に「うつ病」に苦しむ人を救うことになる。