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竹林篤実のうつ病ブックレビュー
抗うつ薬の真実

 うつ病100万人時代である。うつ病患者の急激な増加に合わせるように、さまざまな薬が開発されてきた。いま抗うつ薬の主流は、「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」、あるいは「SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)」へと移っている。一方で、SSRI登場前に使われていた三環系抗うつ薬は、一世代前の薬と見なされるようだ。

 しかし、この認識自体が、すでに誤っていると著者は指摘する。なぜならSSRIと三環系うつ薬の間には、単なる世代差などでは済まされない決定的な違いがあるからだ。

 「SSRIの作用の本質は「まあいいか効果」であり、抗うつ薬と言うよりは感情麻酔薬とでも呼ぶべき作用である。これに対してTCA(三環系抗うつ薬)は、意欲や興味関心などの陽性感情を高める作用を有しており、感情賦活薬とみなすべきである(本書/P117)」。

 つまり、SSRIと三環系抗うつ薬では、感情に対する作用がまったく逆なのだ。従って、この二つの抗うつ薬がもたらすベネフィットとリスクも、当然大きく異なってくる。では、これほどまでに性質の違う薬が、いずれも『同じ』抗うつ薬として臨床の現場で使われていることは、一体何を意味しているのだろうか。極論するなら、うつ病は未だに“よくわからない病気”ということだ。

 臨床の現場で患者と直に接する筆者の問題意識は、薬物療法の弊害に向かう。すなわち「薬物療法一辺倒の治療アプローチによる多剤大量投与や医原性とも言える遷延うつ病が増加している。遷延するうつ病患者の中には、医原性遷延うつ病といわざるをえない症例がかなり見られる。こうした患者の中には、医師から処方された薬物による治療的依存、処方薬依存と見なさざるをえないケースも混じっている(本書/P262)」。

 わかりやすく言えば、薬物を中心とする治療が、うつ病を治すのではなく、悪化させ長期化させているのである。

 最新の薬だからという理由だけで、SSRIやSNRIが選択されているとすれば、それは明らかにおかしい。SSRIには気分や感情を上げる作用はなく、そうした作用は三環系抗うつ薬にある。とはいえSSRIに効果がないという話ではない。SSRIには「感情をフラットにする作用があり、実は、これが「治るメカニズム」である(本書/P195)」

 ポイントは、当たり前の話だが、患者一人ひとりの病状に合わせて、適切な薬を選択することだ。病状に合わせるためには、患者の状態の変化をきめ細かくチェックしなければならない。特に「投与後第1週目における臨床医の決めの細かい観察が重要(本書/P147)」なのだ。

 ところが「従来抗うつ薬の効果発現には1~2週間の遅れがあると信じられてきた。これが投与初期における賦活症候群などの重大な中枢刺激症状の見逃しや、投与初期のきめ細かい症状観察の軽視につながった可能性がある(本書/P144)」。問題となっているのが、ここで指摘されている『賦活症候群』である。

 『賦活症候群』とは、SSRIなどの新規抗うつ薬が引き起こす、さまざまな副作用のこと。例えば、不眠、不安から自殺念慮などがあるが、世界的にもまだ認識が浅く十分な情報やエビデンスがない。ただ副作用が起こる可能性は明らかであるため、臨床医に対する次のような対処を筆者は求めている。

 「特にSSRIやSNRIは少量から開始し、必要に応じて慎重に漸増していくこと、投与初期の1カ月間、特に最初の9日間は症状の悪化や新たな症状の発現に注意すること、症状の悪化や新たな症状が発現し、賦活症候群の可能性が疑われた場合は、抗うつ薬を増量しない(本書/P102)」ことなどだ。

 抗うつ薬は、脳に作用する。その作用は強力で、さまざまな副作用を及ぼすリスクがあることを知っておかなければならない。本書は臨床医を対象とするため、用語など少し難解な部分はあるが、身近にうつに苦しむ人を抱えている関係者なら、ぜひ目を通しておきたい一冊である。