その他のレビュー

竹林篤実のうつ病ブックレビュー
はじめての認知療法

 2010年から、日本では「認知療法(認知行動療法)」に健康保険が適用されるようになった。うつ病治療法の一つとして、認知療法に国からお墨付きが出されたのだ。

 認知療法とは「米国の精神科医アーロン・T・ベック博士がはじめて提唱し、その効果を実証した(本書/P3)」精神療法のこと。「うつ病や不安障害などの精神疾患の治療法として、薬物療法と同様に世界的に注目されている精神療法(本書/P3)」である。

 本書では、その認知療法の概要から、具体的な進め方までが詳しく説明される。これを読めば、認知療法をひと通りマスターできるだけでなく、簡単なセルフトレーニングもできるようになるだろう。まさに認知療法の絶好の入門書だ。

 認知療法の特長は、人の考え方に注目する点にある。認知とは「ものの受け取り方や考え方(本書/P18)」のこと。あなたは自分のものの考え方を意識したことがあるだろうか。よく使われるたとえ話がある。コップに水が半分入っているのを見て「まだ半分残っている」と見るか、「もう半分しかない」と受け止めるか。

 この話が教えてくれるのは、コップの水を見ただけでも悲観的に考える人がいれば、楽観視する人もいるということ。しかも、コップの水を見てから悲観/楽観の判断が下されるまでの課程で、筋道立てた思考が行われるわけではない。目で見た情報に対して、自動的かつ瞬間的に判断が行われる。これを「自動思考」という。

 人は誰でも、こうした自動思考を行っている。五感を通じて飛び込んでくる情報に対して、いちいちその意味を考え、推論を行って判断を下していたのでは、頭が疲れて仕方がないからだ。しかし、自分の自動思考の傾向については、一度しっかり振り返って考えてみたほうが良い。

 認知療法が着目するのも、この自動思考である。通常なら自動思考は、人により異なる。ところが、うつ状態になった人には、ものの考え方・受け止め方に共通する傾向が見られるという。これが「否定的認知の三徴」と呼ばれる。

 うつ状態になると人は、1)自分自身に対して、2)周囲との関係に対して、3)将来に対して、否定的に考えがちになる。何事に対しても否定的に考えるようでは気分が落ち込み、行動もネガティブになっていくだろう。  「親しい友だちにケータイメールを送り、すぐに返事がなかったときのことを想像して(本書/P21)」みよう。自分が嫌われたと「認知」すれば、その人との関係が失われた「喪失感」が生まれ、引きこもる「行動」をとるかもしれない。

 これが正常な状態であれば、返事がないのは「メールを見ていないから」「忙しいから」ぐらいに受け止め、特に気にしたりはしないはずだ。うつ状態とそうでないときでは「認知」が異なってしまう。返事がないことに対して「相手が怒っている」「ひどい人だ」といった受け止め方(=認知)をする可能性もある。

 事実はただ一つ、メールに返事がなかっただけである。にもかかわらず人は、一つの事実に対して、さまざまに勝手な判断を下す。この歪んだ自動思考、偏った思い込みが、本来なら感じる必要のない気分を引き起こし、その気分がネガティブな行動につながっていく。うつ状態の悪循環である。従って認知療法の第一ステップは、自分の思い込み、思考の偏りを自覚することになる。

 本書では、そうした思い込みを見つめ直し、思考の偏りを正す方法が詳しく記されている。そのために使うツールも添付されている。「もしかして、うつかな?」と思ったときには、本書を参考に、自分の思考の偏りを一度、チェックしてみるといいだろう。