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竹林篤実のうつ病ブックレビュー
30代の“うつ” 会社で何が起きているのか

 うつ病に関する本は多くが理科系だ。すなわち、うつ病発症のメカニズムや病気への対処法などについて医学的アプローチから書かれることが多い。これに対して、数少ない『社会科』視点から書かれた一冊が本書である。

 本書は30代のうつ病患者が増える企業現場を丹念に取材し、うつ病問題の背景を解き明かそうとしている。30代に着目した理由は次の2点である。まず、企業に対するアンケート調査から30代のうつ病増加が明らかになったことと、うつをテーマに取りあげた番組に寄せられたメールの多くが30代からだったこと。

 本書の企画や取材がスタートしたのはおそらく2005年頃からだろう。当時の30代は「厳しくなっていく企業経営の中で、「成果主義」といった新しい人事制度を経験し、これまでの年功序列や終身雇用が崩壊していくのを目の当たりにした(本書/P8)」人たちである。

 しかも「非正規雇用が急速に広がり、働き方も大きく変化した。所得格差は開き、「働いていれば食べていける」というかつての日本を支えた価値観は崩壊した(本書/P9)」世代でもある。

 取材班は企業取材を進めるうちに、現場の危機感を共有するようになる。企業の中には取材を拒否するところも多かった。「うつ病患者のいる企業」というレッテルは企業イメージを損ねかねないからだ。そんな企業でも現場担当者だけは、取材に協力してくれたという。

 なぜなら現場の担当者たちには強い危機感があるからだ。「30代を取り巻く職場での『うつ病』の実態はかつてないほど厳しい。対症療法ではなく根本的な対策を講じないと大変なことになる(本書/P10)」。それほど30代のうつは、企業にとって深刻な問題となっている。

 では、なぜ30代にうつ病が頻発するのだろうか。

 主な理由は、バブル崩壊により社内の人口構成が大きく変わったことにある。大幅な新卒採用抑制により20代が減り、リストラにより40代も大きく減った。必然的に仕事は30代に集中せざるを得ない。

 その結果「激務の中で、仕事がうまく回らなくなったときほど、自分が「使い捨てられるかもしれない」と不安に襲われて、精神的支柱がポッキリ折れてしまう(本書/P52)」30代が急増した。

 そこへ社内の人口ピラミッド構造の変化が追い打ちをかけた。部長代理、課長代理など「部下を持たない管理職も増えて、命令系統は複雑化(本書/P50)」を極めている。上に話を通すことが非常に難しくなっていて、コミュニケーション不全問題が起こっている。

 本書には『新型うつ』についての指摘もある。取材が行われた数年前の時点で既に、企業の現場ではこの病気が問題となりつつあったのだ。

 当時はまだ『新型うつ』ではなく『逃避型』『欲求(要求)過多型』と表現され、従来型とは明らかに違うタイプとして認識されている。逃避型うつになる30代には、次のような共通点がみられるという。

 「男性エリートサラリーマンで、幼児期もしくは子ども時代は過保護に育てられ、生活水準の高い生活を送ってきていること。そのためプライドが高く、体面を大変に気にする態度が目立つ一方で、困難な状況に遭うと、すぐに気持ちが滅入り、自らの抑うつ気分を周囲に認めさせて、問題を回避する傾向(本書/P71)」がある。まさに『新型うつ』である。

 30代のうつを多面的に捉え、企業での実際の対処例なども紹介する本書は、企業のメンタルヘルス担当者にとって格好の参考書となるだろう。同時にマネジメントに携わる方たちにとっても、社内の業務環境見直しの参考となる一冊である。