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竹林篤実のうつ病ブックレビュー
部下が病気にならない「できる」上司の技術

 メンタルヘルスが企業経営の重要課題となっている。1998年に3万人を超えた年間の自殺者数は、高止まりしたまま。自殺者を男女別に見れば70%以上が男性で、精神疾患を患っているケースが多い。

 1998年といえば金融破綻が起こった年である。世間には不況の波が一気に押し寄せ、リストラが横行した。多数の失業者が出る一方で、残った社員にはオーバーワークが課せられる。こうした要因がストレスを引き起こし自殺が多発するようになった。

 そして2000年、厚生労働省が「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を発表する。職場のメンタルヘルス問題は、もはや国としても看過できないレベルにまで悪化し、企業もこの問題に真剣に取り組まざるを得なくなった。

 近年、目を引くのが30歳代以下の若年層でメンタルヘルス不調者が増えていること。精神医学の世界で「現代型うつ」や「双極性II型うつ」あるいは「ディスチミア親和型うつ」などと呼ばれる病態である。

 これまで男性のうつ病は40歳代以降に多く見られた。ところが最近増えているのは30代以下のうつ病患者であり、その病態は従来と大きく異なる。新型のうつ病は医学的定義もまだ定まっておらず、当然その治療法も確立されてはいない。

 多発する若年層のうつ病にもっとも苦しめられているのは、彼らを部下にもつ中間管理職、つまり上司である。上司はいま本当につらい状況にさらされている。「実際に心の健康を崩した部下を抱え、心理的負担から自分も心の調子を崩してしまう管理職(本書/3P)」が増加中だ。

 本書が説くのは、部下を心の病気から守るための“上司の技術”であり、それは上司が自分の身を守るため身につけるべき技術でもある。上司は、まず次の2つの大原則を守ることだ。

原則1
メンタルヘルスに関しては、個人としてできること、会社・組織にしかできないこと、専門医や専門家にしかできないことがある。すべてを自分の力だけでなんとかしようとしないこと。

原則2
「心の病気」と「身体の病気」を区別して捉えないこと(本書/4P)。

 この原則を元に、本書では「できる上司」であるための具体的な技術が28紹介されている。部下の不調をできるだけ早く見つけることは誰でもうなずくところだが、意外な技術として「聴くだけに留める」重要性が指摘されている。実はこれが「できる上司の技術」第1番目なのだ。

 部下の“心の問題”を上司が解決しようとしてはいけない。ことはそれほど簡単ではなく、そもそも専門知識のない人間に心の問題解決はできない。そう割り切ることだ。

 とはいえ部下は話を聴いてもらいたいものだし、話を聴くのは上司の役割でもある。心優しき人ほど親身になって聴こうとするだろう。しかし、上司はカウンセラーではない。そのことを忘れてはいけない。

 救いたくなる気持ちはわかるが、下手をすれば上司自らがうつになるリスクもある。仕事のできる中間管理職が部下のメンタルヘルスに巻き込まれてしまい、戦線離脱してしまっては会社にとって二重の損失になる。

 こうした事態を防ぐためにはどうすればいいか。本書はメンタルヘルス不調を訴える部下を持つ上司はもちろん、経営者も必読の書である。