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竹林篤実のうつ病ブックレビュー
老年期うつ

 2004年、日本の65歳以上人口は、全人口の約19%を占めていた。一方で、同年の高齢自殺者の割合は全自殺者の24%だった。高齢者の自殺率は、その人口構成比より高い。

 本書によれば、高齢者が他の年代より高い自殺率を示すのは、世界共通の現象だという。であるならばこの先、日本では高齢の自殺者が急増する恐れがある。日本はいま、人類がかつて経験したことのない速さで高齢化が進んでいるからだ。2030年には高齢人口が全人口の32%にもなる。そのとき高齢者の自殺数はどうなっているだろうか。

 高齢者の自殺の背景には、うつ病が潜んでいることが多い。うつ病は高齢者にとっても極めて危険な病だ。お年寄りのうつ病としっかり向き合い自殺を防ぐことは、今後の日本社会にとって非常に重要な課題である。

 ところが、高齢者のうつ病判断はとても難しい。若年層と違って高齢者の場合は、うつ病の典型的な症状がはっきりとは出てこない。また、表面的な症状が似通っているために認知症と誤診するリスクもある。歳を重ねると身近な人や知人を亡くすケースが多く、その死別がもたらす深い悲嘆が、いつの間にかうつに変わるケースもある。

 中でもやっかいなのが、うつ病と認知症の見極めだ。ここを正確に判別しないと治療法を誤ることになる。素人判断は危険だが、本書には「うつ病」と「認知症」の比較表が掲載されているので、どなたか身近な方の様子がおかしいときは参考にされると良いだろう。

 そして、もし少しでも「おや?」と思われる節があるなら、ともかく専門医の診察を受けることだ。ただ、病院に行くことについてもお年寄りならではの難しさがある。なかなか素直には行ってくれない。精神科に対して昔のイメージにとらわれたままの方が多いからだが、ではどうやって専門医のところへ連れて行けば良いのだろうか。

 お年寄り自身が頼りにするキーパーソンに働きかけてもらう、かかりつけ医に相談する、まず体の不調チェックから入る、周りの人が一緒に受診するなどの方法が、本書では紹介されている。ナイーブで、しかも頑なになりがちなお年寄に対するときは、何より相手の気持ちを思いやる姿勢が大切だ。

 うつ病であることが明らかになれば、治療法自体は特に変わったことをするわけではない。基本は薬物療法であり、症状によって心理療法を組み合わせる。心理療法の中でも人生を振り返る回想法が、一定の成果を挙げるケースが多いようだ。相手が人生経験の豊富な高齢者だから回想法が効くのだろう。

 高齢者のうつ病は、一筋縄には行かない問題である。もちろん病に苦しむことなどなく、一生を過ごせる方が良いに決まっている。けれども、うつ病にかかることで、人生の意味を改めて見出す人もいる。「うつ病が治ったときには、発病前より人間として豊かになっている(同書、172ページにある、自ら高齢時のうつ病に悩んだ俳優の故・竹脇無我氏の言葉)」可能性もあるのだ。

 求められるのは、周りの人の適切なサポートである。本書の巻末には参考になるQ&A集も掲載されている。もし、身近にいるお年寄りが「うつではないか?」と思われる方は、参考にされてみてはいかがだろうか。