歯周病は、細菌の感染による慢性の炎症性の病気です。最近、歯周病が存在すると全身の健康に悪影響が生じやすくなること、逆に、全身の健康状態も歯周組織の健康維持に密接に関係していることが明らかにされてきています。
閉経期以降の女性などに多くみられる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)も、そうした歯周病と相互関係を持つ全身の病気として、注目されているものの一つです。
歯周病と骨粗鬆症の関係については、1960年代後半より関心が持たれ報告がされ始めました。骨粗鬆症は、全身の骨強度(骨量〔骨密度〕と骨質による)が低下し、骨がもろくなって骨折しやすくなる病気ですが、骨密度低下の影響が歯を支える歯槽骨(しそうこつ)の吸収にも関係するのではないかと考えられたわけです。
両者の因果関係を明らかにするための研究としては、これまでに30を超える研究結果が、論文として報告されています。このうち、骨粗鬆症と下顎骨や歯槽骨の骨密度低下との関連については、1990年代中頃から報告されています。
こうした研究により、骨粗鬆症の患者さんでは、歯周病が進行しやすいことが明らかになりつつあります。日本人を対象にした我々の研究でも、閉経後骨粗鬆症の患者さんは、対照群に比べて、歯肉出血率が高く、歯周病がより進行している傾向にあることが分かりました。また、閉経後骨粗鬆症の患者さんでは、下顎骨の骨粗鬆症化が進んでおり、広い範囲にわたって慢性の歯周炎にかかっていることも、明らかにしました。
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では、なぜ閉経後骨粗鬆症の患者さんでは、歯周病が進行しやすいのでしょうか。この原因として最も重要と考えられているのが、女性ホルモンであるエストロゲンの欠乏です。
閉経後骨粗鬆症は、閉経による卵巣機能の低下により、骨代謝にかかわるエストロゲン分泌の低下が起こり、発症します。
エストロゲンが欠乏すると、全身の骨密度の低下に伴って顎骨の骨密度は減少します。また口腔内では、歯周ポケット内で、免疫担当細胞であるT細胞やB細胞などの増殖と分化の亢進、骨吸収性サイトカインであるインターロイキン-1(IL-1)やIL-6、IL-8、腫瘍壊死因子(TNF-α)、さらに炎症性メディエーターであるプロスタグランジンE2などの産生が亢進されます。この結果、歯周炎の進行が加速されると考えられているのです。
実際、歯周ポケット内の歯肉溝滲出液に含まれるIL-1などのサイトカイン量は、歯肉の炎症をコントロールしていても、閉経後のエストロゲンが欠乏した患者で亢進していることを我々は示しました。
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骨粗鬆症の発症率は、閉経前後の50歳代から急激に増えますが、この年代は、歯周病により歯を失う人が急に多くなる年代でもあります。したがって、特に閉経後の女性の場合、歯周病のリスクを減らすという意味でも、骨粗鬆症の予防や治療に努めることが大切です。
特に、骨粗鬆症の積極的な治療は、歯の喪失や下顎骨の骨密度低下、歯槽骨の吸収、歯周組織の破壊などを抑える効果があることが報告されています。
例えば、閉経後女性に対する積極的なホルモン補充療法(HRT:エストロゲンの補充)は、歯の喪失などに抑制的に働くことが複数の研究により明らかにされています。その後、長期的なホルモン補充療法は、乳がんや血栓症などのリスクを高めるとの懸念があることが判明し慎重に行われていますが、強力な骨吸収抑制作用を示すビスホスホネート系薬剤による治療でも、歯槽骨吸収の抑制や歯周病の改善が見られることが報告されています。
また、エストロゲンと同じ働きをするといわれる大豆イソフラボンなどのサプリメントの長期的摂取だけでは骨量は増えないことがわかっていますが、最近は、副作用の可能性が少ないことから、口腔への効果に期待が持たれます。
閉経後女性で歯周病にかかっている患者さん85人を対象に、カルシウムや大豆イソフラボンの摂取が及ぼす影響について、我々が行った二重盲検試験では、6カ月間のカルシウムと大豆イソフラボンの併用摂取が、歯槽骨の吸収を抑制するなどの可能性があることが分かりました。
閉経後の女性は、たとえ歯周炎がなくても、エストロゲンの減少により、炎症性サイトカインなどの分泌が亢進されやすい状態にあると考えられます。つまり、歯周病という“火”がつきやすく、広がりやすい状態にあるのです。このことを念頭に、日ごろから歯周ケアを十分に行うことが大切といえるでしょう。

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