このページの本文へ
情報・通信

記者のつぶやき

通信がなくともユビキタスという世界

2008年11月18日

 ITpro EXPO AWARD対象の製品を取材するために三菱電機を訪れた。その取材の際に、意外に自分が偏った考え方をしていたことに気付かされたので、今回はそのときのことを書きたいと思う。

 同社が受賞したAWARD製品は「UHF帯RFID大容量メモリタグ」。ご存じのように、RFIDタグとは電磁波によって情報をやり取りする小さな記憶媒体のことである(用語解説記事)。商品の検品や在庫管理などに使われている。そのうちUHF帯(800MHzと900MHzの周波数帯)を使うものは、タグとリーダー/ライターとの通信距離が長くても情報のやり取りができ、複数のタグを一括で読み取りやすいというメリットがある。このため、フォークリフトなどで品物をまとめて運んでいるときなどでも、容易にタグを読み取れる。そういう利点については理解していた。

 だが、大容量メモリタグのメリットについてはよく分からなかった。そこで、その大容量メモリタグの特徴について尋ねると、64Kビット(8Kバイト)のメモリ容量に情報が書き込めるのだという。「たった8Kバイト?」。ちまたに出回っているUSBメモリのように数100Mバイトもの記憶容量があれば話は別だが(電源を持たないRFIDでそこまでの容量を持つものは現在の技術では無理だそうだが)、たった8Kバイトを書き込めるメリットとはいったい何なのだろうか。

たった8Kバイトの情報が書き込めると言われても…

 こうした疑問に対して三菱電機の担当者は、通信インフラがなくサーバーとのやり取りができない場所でもRFIDタグが使えるようになることだと答えた。そして極端に言えば、情報を格納するサーバーなどが存在しなくても、品物の管理などができるようになることだと続ける。そこで筆者はさらに混乱する。「通信インフラがない場所?」。

 筆者には、RFIDではタグに書き込まれた商品コードなどをリーダーで読み取り、それぞれのコードの品物があるのかないのか、あるいはどこに行ったかなどをサーバー側で管理するものだという理解があった。このため、RFIDには通信インフラは欠かせないものと考えていた。

 というのも筆者はこれまで、主に通信系の雑誌を担当していた。さらに、今の編集の仕事をする前は、通信システムを開発するエンジニアだった。通信の究極の目標は「いつでも、どこでも、誰とでも」。そして「高速に」。現在、その世界が現実のものになろうとしている。光ファイバと無線ネットワークの普及が進み、一歩、一歩、ユビキタス社会が近づいてきた。ユビキタス社会の一翼を担うRFIDも、当然のことながら、通信とセットで考えていた。そのため、サーバーと通信できる環境がなくてもRFIDを利用できるメリットというものを想像できなかったのである。

 確かに、無線ブロードバンドにより「いつでも、どこでも、誰とでも、高速に」の世界は既に到来していると言える。しかし、実際にはコスト上の問題などにより通信インフラが容易に敷設できない場所もある。例えば、非常に広い工場な倉庫など。新設のものにはあらかじめ通信インフラを用意するケースもあるだうが、既設の工場や倉庫に後から通信インフラを整備するには多大なコストがかかる。そうした場所で、この大容量メモリタグは威力を発揮するという。

航空機の部品メンテナンスへの利用へ

 加えて、サーバーに情報を記録しないことのメリットにも気付かされた。品物に付いているタグのIDをキーにしてサーバーに情報を記録するのは、品物のタグに情報が書き込めないからとも言える。例えば機器のメンテナンス情報などを記録する場合。記録する情報は、それぞれの機器と一対一に対応しているため、メンテナンス情報をタグに書き込むことができれば一番確かでてっとり早い。もちろん、その情報を集約することで故障の多い部品などを割り出すことができるようになるが、それはあくまでも二次的なもの。一次情報はあくまでも機器そのものに持つことで信頼性が増す。

 こう書いてもピンと来ないかもしれないが、実際、三菱電機のRFIDタグは航空機のメンテナンスに使われる話が進んでいるという。一つひとつの航空機部品に製造段階からタグを付け、それを部品の物流段階、航空機の組み立て段階、そして運用している航空機のメンテナンス段階でもタグを活用する。多くの人命がかかわる航空機である。どんなことがあっても、部品IDとメンテナンス情報のひも付けミスなどで間違った情報が記録されてはならない。一番確実なのは、その部品に情報を記録することである。

 こういう話で取材が進むにつれて、筆者はあることにハタと気付いた。ずいぶん前の話にはなるものの、「現物に付いている情報の方が信頼できる」という経験をしたことがあったのだ。それは、プログラムのソース・コードだ。システム・エンジニアだったころ、トラブル対応でプログラムの書き換えなどが必要になった際、一番信頼できるのはソース・コードに書かれたコメントだったのだ。

 もちろんプログラム仕様書は存在する。しかし、それが信頼に足るものだったのはシステムの開発直後。二次開発あるいはトラブル対応のバグ・フィックスなどを通じて、ソース・コードと仕様書の情報は乖離が生じていた。前回のトラブル対応で新たに付け加えた変数が、別のトラブルの原因になっていたこともあったが、そうしたトラブル対応の情報は仕様書には反映されていなかった。ソース・コードに書かれた、「何年何月何日にどういう目的でこの変数を追加したか」という以前の開発担当者のコメントが大いに役立った。

 信頼できるのは現場の情報。こうしたことは、昔のシステム開発だけの話ではないだろう。筆者の偏った認識を是正してくれたという意味で、今回の取材は大いに意義のあるものだった。

 なお、ITpro EXPO AWARDを受賞した製品/サービスについての紹介記事は、今週月曜日から連載を開始している(EXPO展示会レビュー記事一覧)。三菱電機の「UHF帯RFID大容量メモリタグ」も来週には記事を公開する予定なので、そちらもぜひご覧いただきたい。

(安井 晴海=ITpro)

トップ特集企業・経営情報・通信パソコンライフ電子・機械環境建設医療時評コラム中国キャリワカひと・話題ビジネスABC特設新刊

このページの先頭へ

本文へ戻る