スペシャルリポート

はた楽インタビューvol.2 ひとりでがんばりすぎない生き方を ほろいわなな(カウンセラー)×ももせいづみ

コラム「心のナチュラルライフ」でおなじみの心理カウンセラー、ほろいわななさん。女性、子ども、そこを取り巻く社会がどう変化しているのかについて、カウンセリングルームから、そしてご自身の暮らしから見えてくる「今」について、お話をうかがいました。
はた楽プロジェクト
「ラクにならなきゃ楽しくなれない!」をキーワードに、女性が「働き、生み育て、生きていく」ことがもっともっと「ラクになる」ためには何をしたらいいのか? を探り、発信し、つながっていこうという試み。ももせいづみさんが、生活コラムニストの仕事を始めて10年の節目にあたり企画した。
URL: http://www.rakuninaru.net/

専業主婦が生きにくい時代

―― ほろいわさんの「感じない子ども こころを扱えない大人」(集英社)が出版されてから、ほぼ10年。その間この本はずっと売れ続けているなんて、すごい! この10年を振り返ってみて、世の中にはどんな変化がありましたか? お仕事や生活の中で感じていることはありますか?

ほろいわ:まず、私自身のことでいえば、上の子を産んだのが1997年。二人目の出産が2001年です。この間、たったの4年なんだけど、ものすごい違いを感じましたね。下の子を育てているときのほうが、なんだか世の中が殺伐としてせちがらい雰囲気があった。これって、上の子のときには感じなかったことなんですよね。

―― 具体的にはどんな場面で違いを感じましたか?

ほろいわ:まず、電車の中で妊婦や子どもに席をゆずるサラリーマンがいなくなった。不景気の影響もあると思います。とにかく、せっぱつまったぎりぎり感が車内にあふれてる。ああ、この時代に子どもを育てていくのは大変だなあ。私は二人目だからまだいいけど、一人目だったらしんどいだろうなあと思いましたね。

―― なるほど。今回のプロジェクトのテーマは「ラクになる」なんですけど、女性や子どもを取り巻く「ラク」というのは、社会や経済の状態とも強くリンクしているといっていいのかもしれませんね。ほろいわさんのカウンセリングルームで出会う女性たちはどうですか?

ほろいわ:最近はね、おとなしいタイプのお母さんの相談が多いですね。

―― おとなしい? 消極的な人が増えたというようなことですか?

ほろいわ:そういうことではありません。世の中には、バリバリ外に出て働きたい!というタイプばかりでなく、家の中を居心地よく整えて暮らすことに意味を見い出す人もいると思うんですね。だから専業主婦という選択肢を選んで、経済面でも問題なくそのままでいられるのに、「なぜ働かないの?」と周囲から言われて不安定になったり、無理して仕事をし始めて、家の中が片付かなくなり、暮らしのペースが崩れてしまうことに大きなストレスを抱えてしまう。そんな声をよく聞くようになってきましたね。

自分の中に宝の箱はみつからない

―― 前にうかがった日本女子大の永井暁子先生のお話(「楽になるための家族観、働き方とは」)では、女性のライフコースの選択肢が増えすぎてしまったことが、「自分の選んだこの道は本当に正しいのか」という不安感を呼ぶというお話があったんです。これまでは家庭に入って安住できた人が、それだけじゃだめなんじゃないかと不安になって自信が持てない。とにかく選択肢がありすぎて、どの場所にいても不安を感じてしまう人が増えているんじゃないか、と。

ほろいわ:それは実感としてとてもよく分かりますね。何でもOK、どれを選んでもいいんだよと言われると、かえって不安に感じてしまう。選択肢が多いからよいというわけでもないんですよね。

―― 選択肢は無限にあると言われても、実際には一人の人間が思いつく選択肢というのは思ったより少ないですしね。

ほろいわ:そうそう、やってみなくちゃ分からない、ということのほうが多い。

 最近は全体的に自分自身への要求水準が高くなっているような気もします。あなたはそのままで十分いいじゃない?という状態なのに、いつまでも「このままじゃいけないのでは」と自分を肯定できない人が増えていますね。

―― スピリチュアルブームののち、エニアグラム(9つの性格タイプから自分の特性を調べるもの)とか自己分析みたいなものが若い女性の間でも流行し、入学や入社の際に適正テストをされることも増えました。こうした診断を受けることや、自分探しの心理テストをやってみることは、今や当たり前のことになりつつありますよね。

ほろいわ:はい、でもね、自分の中に宝の箱がどこかに埋まっているというイメージで自分をいじくりまわしても、実際には何かがみつかるわけでもないんです。逆に空っぽな自分が見えてしまうだけ、ということも多い。自分という宝箱の中身を探ろうと考えるのではなくて、その中身はこれから作っていくんだ、というぐらいのつもりでいてほしいですね。

―― 今は若いうちから本当の自分探しとか、本当にやりたい仕事を探そうといった風潮がありますよね。うちの子も中学生のときに自己分析や職業適性診断みたいなことを山ほどやらされてきてました。その時の彼の適正は「芸術家」だったんです(笑)。でもねえ、13歳で芸術家を目指そうって何? 逆にその他の選択肢が狭められてしまうようで、疑問に思ったことを覚えています。

ほろいわ:ほんとですね(笑)。とにかくやりすぎはよくないです。あまり決めすぎないほうがうまくいくと思います。

SOSを言えない30代

ほろいわ:最近よく感じているのは、特に30代の女性たちの中に、周りに頼るのがとても苦手な人が増えているということですね。

 例えば、うつの状態が相当ひどくなっているのに、「絶対に親に言わないでください。そんなことをしたらもっと大変なことになりますから」と、親に頼れない。大学で研究に行き詰まっているというので、「先生に相談してみなさい」と言っても、会いに行けない。

 こうした子達は、ちょうどチャットやmixiなどのSNSが流行りだした世代なんですね。誰か助けてください、とネット上に出してアドバイスをもらうことはできるし、会ったことのない人にメールをすることだってできる。でも、隣に住んでいる人に声をかけることができない。そういう生身のコミュニケーションに慣れない人が増えていると感じますね。

―― ちょうど昨日、育児休業を取って復帰してきた人たちをサポートしている人と話していたんですが、最近は復帰後に、ギリギリまで自分で抱え込んでしまう女性が増えたとおっしゃっていました。SOSを出せずにがんばりすぎてしまって、ぽっきりと折れてしまう。

ほろいわ:はい。とにかく「自分でなんとかしなきゃ感」が強い人が多いように思います。

―― なぜなんでしょう?

ほろいわ:人を頼った経験が少ないんだと思うんですよ。それ以前に本当に困ってしまった経験が少ない。困って、何かを解決しなくてはという窮地に立たされる経験が圧倒的に不足している気がします。だから、どうしようと思いながらがんばっているうちに、限界を超えてしまう。

―― なるほど。ある時期から、子ども同士の交友関係や、学校や塾、習い事にも親が介入してくるようになりましたよね。さまざまなトラブルを先回りして親や周りが解決してしまう。子ども自身が困って、解決方法を探る機会が不足しているんですね。

父親にも余裕がない

ほろいわ:さらに、最近はここに父親も入ってくるようになりました。今までは、母親や子供の言い分を聞きつつ、相手や学校との間に入って、客観的視点から仲裁役に回るお父さんが多かったのですが、最近は母親や子どもの言い分を鵜呑みにして、感情的に学校に乗り込んでくる父親が増えましたね。父親サイドにも余裕がないんだと思います。だから、ものがいいやすい学校に感情が向かっていきやすい。

 学校を完全なサービス提供者として受け止めている親がものすごく多いんです。すべてを経済用語やデータで語ろうとしすぎ、という感があります。

―― PTA活動などに関しても、すごく合理性を主張する人が増えましたね。電話連絡網は個人情報が漏れるし、面倒だからメールに一斉同報配信して欲しい。欠席の連絡帳を友達に託すことは「時間の無駄」だから廃止すべき、といったように。こういう時間の無駄の中に、意味があることがいっぱいあるはずなんですけどね。

ほろいわ:学校とか病院という場所に、サービス提供者としての要望を持ち込みすぎるのは、避けたほうがいいんです。でも、確実に世の中はそちらの方向に流れていますね。

―― 私が子どもを産んだのは16年前。働きながら子育てしていた私にとって、子育ては「意味のない時間」の気の遠くなるような繰り返しと、「どんなに努力をしても思うようにならないもの」と向き合う体験でした。でもそんな経験が、自分を大きく強くして、決して仕事では得られない能力を作ってきたという実感があるんです。

 意味のない時間を合理化して、努力すれば必ず結果が得られる。そしてどんな問題にも必ず、すぐ答えやデータがみつかるという方向に世の中が流れてしまうことの危惧感を、最近は感じることがあります。

ほろいわ:子育てはすぐに答えが出ないものだから、すぐ答えを欲しがってしまうとつらくなりますよね。

 最近は「自分で解決しなくては」と答えを求めて、閉じた感じになっている人が多い傾向があると思います。自分で壁を作って閉じこもっているという感じゃないんです。自分でも気づかないうちに一人で抱えて限界を超えてしまう。ちゃんとどこかで、SOSを言える力が必要なんだと思います。

>> 「はた楽インタビュー」バックナンバー
《はた楽インタビュー1》 楽になるための家族観、はたらき方とは

(2010年8月27日)