

大阪は東大阪にある工房「河内風鈴」。閑静な住宅街を抜けると店の軒先にたくさん吊られた風鈴のチリリンという音が工房まで道案内してくれます。30℃を超えた日に訪れたにも関わらず、風に揺れ、やさしく響くガラスの風鈴の音は暑さを吹き飛ばしてくれるような気がします。
自宅のガレージが工房へと変身を遂げ、懐かしい雰囲気のたたずまいに色とりどりの風鈴。工房に入ると熱が外に漏れないようにとレンガを積み上げて作った自作の溶解炉がドンと存在感を放ち、遠い昔にタイムトリップしたかのような気持ちになりました。

酒、食品、化粧水などのリサイクルびんを使って手作りの風鈴を作る菅さん。もともと日本のガラス工業は大阪・天満が発祥で地場産業として盛んだったのだそうです。地方によって風鈴は災いからの厄除けや故人をしのぶ音として年中使用されるのですが、夏限定の風物詩というイメージが強く、溶解炉の火の管理や維持費などの問題もあります。だから、個人で工房を持ち、手作り風鈴を作って教えている場所はほとんどないのだそうです。
それでも菅さんは自分ができることは何かと考え、物作りの街として大阪の文化を継承していきたいという思いがあります。また、廃びんを使い、風鈴を手作りすることでリサイクルに関心を持ち、物を大事にするという気持ちを体験してもらいたいという思いもあります。

溶解炉を開けると熱風が押し寄せ、ガラスが溶けて水あめのようになる様子に興奮しながら、私自身も吹きガラスを初体験してきました。
1300℃を超える溶解炉で本体となる透明の溶けたガラスを吹き竿に巻きつけて(玉取り)外に出し、さまざまな色の細かく砕いた色ガラスのかけらを溶着させて風鈴の模様を作ります。真っ赤になって溶けたガラスは炉から出すとあっという間に温度が下がるため炉にガラスを戻すこと数回。すぐにガラスが熱され溶け始めるので形を均衡に保つように吹き竿を回転させながら次の作業へと移ります。
吹き竿をゆっくり回しながらシャボン玉を吹くようにやさしく空気を送り込み、少し膨らませ、また炉に戻すという作業を繰り返します。モタモタしているとガラスの温度が下がり風鈴部分が膨らまず、力を入れすぎると風鈴が大きくなりすぎて失敗してしまうため注意が必要です。

底に穴を開け、回転させながら火箸を使い、風鈴の形を整えます。右手を使えば左手が動かずという、どんくさい私。でも、菅さんが横で失敗しないようにしっかりカバーしてくださるので、風鈴職人にでもなったかのような気分でした。
1300℃まで熱されたガラスは、急激に冷やすと割れてしまうため500℃に保たれた除冷炉に入れて約10時間かけてゆっくり冷やします。すぐに持ち帰るわけではなく、できあがりは翌日以降のお楽しみというのも手作りの醍醐味といえるのではないでしょうか。
ガラスをリサイクルして手作り体験をすることで、物作りの楽しさを知ると同時に環境への意識を高めることができ、少し形がゆがんでいても、味のある、世界にひとつだけの風鈴ができあがります。大人から子どもまで多くの体験希望者やリピーターが河内風鈴を訪れるのも分かりますね。

風鈴のベースには透明の廃びんを利用し、赤色や青色、緑色などの色のついたびんは細かく砕いて模様や飾りに使用します。廃びんの中には手に入りにくい深みのある赤色で作られている特殊な化粧水のびんもあるのですが、菅さんの活動に賛同する化粧品店が化粧品のユーザーに声をかけ、化粧品店を通じて菅さんの元に廃びんが回収されてくるのだそうです。そのほかにも多くの人が数年にわたりガラスびんの回収に協力しています。菅さんはびん回収に協力してくれる人たちへ感謝の気持ちを込めながら、ガラスを吹いて河内風鈴を創作しています。
年に一度、7月~9月の間の工房内は50℃を超えるため溶解炉の中の火を止め、るつぼの入れ替えを行います。ずっと燃え続けていた中の火が完全に消えるまで約1カ月もかかるのだとか。夏の間は、手作り風鈴の温かさや癒しの音色を各地に伝えたいとリアカーのひき売りで奈良や京都など各地を回ります。「風鈴~」と呼び声を出さなくても風鈴の涼しい音に誘われてたくさんの人が声をかけてくれるのだそうです。

河内風鈴は、癒しの音を利用客にも楽しんでほしいという銀行や病院、寺院などにも吊るされています。菅さんの思いは広がり、工房の周辺を通勤する人が少しでも癒しの音を聞いて笑顔になれるようにと風鈴を吊るす家も増え、風鈴街道ができています。最近では都会のビルや施設の中でも、疲れた仕事の合間にホッとしてもらおうと河内風鈴を置きたいという問い合わせがあるのだそうです。
「鳥の声を聞くと和むように、風鈴の音を聞いて、今日はクーラーを止めてみようか、という気になってもらえれば」、と話す菅さん。私の手作り風鈴もベランダでチリリンと涼しげな音を立てています。
河内風鈴: http://www.kawatifuurin.com/