スペシャルリポート

沈んでいるかどうかの議論はさほど重要でない

枝廣 日本でもツバルが沈んでいるか、沈んでいないかという議論になりがちです。少しずつは沈んでいて、その速度が、みんなが言っているほど、逃げ惑うほどではないにしても、このままではだめだというのが一番シンプルな結論だと思います。

海南 あとは、経年変化で、お住まいの方が体で感じている。例えば、5年前はここまで水は来ていなかったけど、今は必ず水がここまで来るということが、実感であると思うんですよね。

枝廣 ただ、難しい面もあります。人の記憶やエピソードに頼って変化をあらわしている部分もある一方で、フィジーにあるSOPAC研究所が衛星写真を分析すると、ツバルの面積は実は2.8ヘクタールも増えていると言っています。その研究所によると、島は普通でも形を変える。こちらは削られていても、その砂が向こうについていることもある。

海南 なるほど。それはあるかもしれない。

枝廣 だから、削られた側にいた人たちとか、そこに生えていた木は被害を受けて倒れてしまう。でもその反対側に回ると、実際、島は広がっている。彼らはそういう現実を写真で見せてくれました。削られているところだけを扱うと、すごく被害があるように見えるわけです。面積が変わってないからいいかというと、また別の問題ですけど。

 科学的に衛星写真やデータを駆使して一方で言われていることと、村の長老が、あそこに島があったんだけど消えてしまったんだと言っている。両方正しいのでしょうけど、それをどうバランスをとったらいいか。SOPACはうそつきだと言うのは簡単でも、それは問題解決にはなりません。

海南 92年の地球サミットのころ、多くの学者が、気候変動あるいは地球温暖化は起きてないと、会議の場所でも大きな声で言っていました。私自身も含め、よくわかっていない人が多かった。20年たってみると、温暖化問題に関する全体的な認識や声の大きさは、全く変わったと思うんですよ。

 科学的に追求して、面積が増えている、増えていないと見ていただく方も必要だと思います。でも、この20年のスパンで見ると、何かの異変を感じる方の数がふえましたよね。

枝廣 それは間違いないですね。

海南 なるべく作品では、温暖化という言葉を使うのを控えました。なぜなら、私がそうだったように、温暖化と聞くと暖かくなっていいじゃないという誤解が生じやすい。急に寒くなると、温暖化してないじゃないかという、初歩的な疑問を呈する方たちがいる。でもそうじゃない。気候変動は長いスパンでは起きていますけど、短い期間に急激に気候が変わりやすくなる、それが地球温暖化の最も大変な影響なんだと。そういう理解を多くの方にしていただきたいのです。

枝廣 温暖化自体を否定している人はほとんどいないと思います。温暖化懐疑論には3つのタイプがあって、温度上昇自体に懐疑的な人は、もうほとんどいない。実感としても温度が上がっているというのはほとんどの人が感じています。

 2番目は、それが人為的な原因かどうかという原因に対する懐疑論。温度は上がっているけど、太陽黒点とか、そういういろんなことを言う人もいる。IPCCのシミュレーションで、人間の温暖化ガスの影響がなかったら、こんなに上がっていないというのはわかっているのですが。

 3番目の懐疑論で、温度は上がっているし、人為的な影響もそこに確かに入っているけど、人間はイノベーションを起こして解決できるので対策を打つ必要はないというものです。「白馬の騎士」と命名しているんですが(笑)、主に男性に、科学に非常に強い信頼感を持つ方もいます。

 懐疑論者の一人である武田邦彦氏がよく言うのは、「ツバルは沈んでない。ツバルが沈んでこんなに大変だから電気を消そうと、うそを教えている」、と。私自身は、ツバルの問題に限らず、ツバルがかわいそうだからとか、ホッキョクグマがかわいそうだから電気を消しましょうではなくて、日本にいる私たちにも全部つながっていると考えるべきだと思います。そういう意味では、どの映像でもいいけど、自分で感じるということが、第一歩なのでしょう。

海南 実は、ツバルだけで2時間の映画を作っても、結構いい作品ができると最初のリサーチでは思っていました。お客さんもそのほうが見やすいかもしれない。

 それでもあえて3つの島を取り上げた理由は、ツバルだけではどこかの遠い、見たことも聞いたこともない島の話で終わらせないためです。暖かい島のツバルと、寒い島のシシマレフ。ベネチアは華やかであるとともに、近代的な生活をしている島。自分と同じ暮らし、あるいは、どこかに自分があこがれるような暮らしを入れ込みたかったのです。予算も、期間も3倍かかりましたが、いろんな国の方に見てもらうためには必要だと思いました。

枝廣 ツバルだけで終わらせたくないという思いをお持ちだったんですね。

現地の人に危機感はあるか

枝廣 IPCCなどで言われているのは、海面上昇、水位の上昇は平均して17cm。このままいくと、今世紀中にあと50数cm。別の大学の研究だと2mという予測もあります。ツバルは平均の海抜が1.5m弱。

海南 だから、最悪のペースをこのままたどった場合は、国土全体が消える可能性があるということですよね。

枝廣 ツバルの首相や政府関係者にお話を聞くと、ツバルの人たち自体の問題意識はそれほど強くないようでした。暮らしの中で「ほんとに海面が上がってるの?」と人に聞いても、そう思っている人は半分ぐらい。どうでした?

海南 途中から、そういう質問を積極的にしなくなりました。もっと違うものに心を奪われていったので。ただ、本島の端っこにアマツクという小さな島があって、島自体が船員の学校です。そこでは、島が全部沈みそうになっていることもあり、学生たちは非常に危機感を持っていました。住んでいる場所によっても感覚は変わるのでしょう。

 あとは、沈んでいくと真剣に考えたらすごい怖い。だから、なるべく考えないようにしてらっしゃると思われる方もいました。

枝廣 東京もそのうち大地震が来ると言っているのに、だれも逃げ出さない。

海南 そうです。でも、私は地震が来たときにいつも、「今回は地震で死ぬかも」と思うことが何回もあります。

枝廣 将来、地震が起こることが海南さんの生活の前提になっているわけですね。ツバルの場合、少しずつ沈んでいるということもあるし、沈まないかもしれないという希望的観測もある。だから、マスコミがつくり上げてきたイメージと、人々の感覚は違うのでしょうね。

 実は、どれぐらい多くの人がどのようにこの映画を見るかに注目しています。何かを感じ取るためには時間的、気持ち的なゆとりが必要だと思うんです。5分ごとにギャグが出てくるテレビ番組に慣れていて、仕事にも追われている忙しい人たちは、この映画を2時間見るのは難しいのではないかと。

海南 大変だと思います。退屈で寝てしまう人がいてもおかしくないと思っています。

枝廣 この映画が持っているメッセージやパワーを、社会が受け入れられるかどうか試せるのでは、と注目しているのです。

 温暖化に関して知識が十分に豊富な人はともかく、勉強したり理解し始めたばかりの人たちは、ツバルは大丈夫じゃないかという楽観的になってしまうかもしれない。もしくは少し科学的に、このままだとこうなる、沈むといった批判的な側面ばかりが印象に残ってしまうかもしれないとも思います。

海南 確かに、ちょっと変わった作品なので、色々な見方をするかたもいらっしゃるでしょうが、そこはお客様にゆだねたいと思っています。

海南友子(かなともこ)

映像作家。日本女子大学在学中に、是枝裕和のテレビドキュメンタリーに出演したことがきっかけで映像の世界へ。卒業後NHKの報道ディレクターとしてNHKスペシャルなどで環境問題の番組を制作。2000年に独立。2001年インドネシアの元『慰安婦』を取材したドキュメンタリー映画『マルディエム彼女の人生に起きたこと』を監督。2004年の『にがい涙の大地から』では、過去の戦争で遺棄された化学兵器に苦しめられる戦後の人々の姿を追った。環境問題はライフワークで、学生時代には植林などの活動や地球サミット(92年)のプロセスに参加。ごみゼロナビゲーションで知られるA SEED JAPANの立ち上げメンバーでもある。

枝廣淳子(えだひろじゅんこ)

環境ジャーナリスト。翻訳者。2002年に日本の持続可能な社会へ向けての取り組みを英語で世界に発信するNGOジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)を仲間と立ち上げ、共同代表を務める。2003年にイーズを設立。「自分を変えられる人は、社会も変えられる」をモットーに、自分自身を変え、さらに組織、地域や社会を変えていく『変化の担い手』(チェンジ・エージェント)を育てるため、「システム思考で自分の成長を考える」コース、「自分のビジョンを描き、自分マネジメントシステムを身につける」コースなどを開催。地球温暖化に関わる世界の最新情報をお届けするウェブサイト『日刊温暖化新聞』のほか、森林など日本の大事なものを人々の暮らしにつなげるためのオンラインショップを運営。「朝2時起きで何でもできる」(著)、「不都合な真実」(訳)、日経エコロジーでの連載など著書、訳書多数
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