スペシャルリポート

海南友子(映画「ビューティフル アイランズ」監督)×枝廣淳子(環境ジャーナリスト) 気候変動で失うものを感じてほしい ツバル、ベネチア、シシマレフを追う

ツバル、ベネチア、シシマレフ。海面上昇の影響が生活の中までおよんでいる3つの島をテーマにしたドキュメンタリー映画「ビューティフル アイランズ」。この映画を監督した海南友子さんと、環境ジャーナリストの枝廣淳子さんが、気候変動と島の人々の暮らしについて語り合いました。

「沈みゆく悲劇の島」はどこにもない

映画「ビューティフル アイランズ」

舞台は、南太平洋のツバル、イタリアのベネチア、アラスカのシシマレフ島。気候も文化も異なる島で生きる人々の普通の「暮らし」に焦点をあて3年がかりで撮影した映像詩ドキュメンタリー。海南監督が「気候変動で、私たちが一体何を失うのかを『感じる』作品につくりたい」と、ナレーションやBGMを排して、波や風の音、島の人々の美しい歌声や子どもの笑顔と旅するような作品になっている。釜山国際映画祭2009アジア映画基金AND賞受賞。アメリカ、韓国での公開も決定している。

7月10日(土)、恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー
配給 ゴー・シネマ
© 海南友子
ビューティフルアイランズ

枝廣 ツバルをテーマに映画を作ろうと思われたのは、そもそもどういう経緯だったんですか。

海南 原点は1992年の地球サミットのころにさかのぼります。当時、環境問題が盛り上がりを見せた時期に、私はまだ大学生だったんですが、どうしても地球サミットに行きたいと思い、1年間休学して、国際的なNGOでボランティアとして参加しました。気候変動枠組条約が議論された場所ということもあり、そのころからすごく興味がありました。

 大学卒業後はNHKのディレクターをしていたのですが、その間も自分の中で一番大事なテーマでした。今回やっと、足かけ4年で、自分が温めてきたテーマを作品にできました。ツバルはとても象徴的な場所です。ツバルはひとつの国全部が消える可能性があると知り、ここは絶対取材しようと最初から決めていました。イタリアのベネチアとアラスカのシシマレフの2島は、リサーチしていく中で決まりました。

枝廣 実際にツバルに行かれて、印象は変わりましたか?

海南 「被害者の島、ツバル」を最初は少し期待してリサーチに行きました。行ってみたら、確かに水面上昇による被害はある。でももっと印象的だったのは、人々の絆でした。例えば、晩ご飯のときに、どこの家庭でも長老の方が声をかけて、合唱するんです。「いただきます」というのと同じ感覚で、家族が声を合わせるのを聞くとすごく美しい。だから、いわゆる被害を訴えるのとは違う作品をどうやったらつくれるか、と考えながらリサーチ期間を過ごしました。その結果、ナレーションなし、歌声、波の音、風の音を中心にする作品にたどり着いたのです。ツバルの美しさ、人の絆の美しさが引き立つように。

枝廣 私が今年1月にツバルに行ったときも、海南さんに似た感情を持ちました。日本人がもつツバルのイメージって、かなり……

海南 ステレオタイプ。

枝廣 そう。「沈みゆく悲劇の島」というイメージ。悲劇はないとは言わないけれど、それが前面に出て、こういうかわいそうなことが起こってはいけないからCO2を減らそうという手段としても使われていますよね。救いを求めて逃げ惑っている人はどこにもいないのに。

海南 そう、そう(笑)。そうなんですよ。ほんとですよね。

枝廣 飛行機で着いたらみんなが駆け寄ってきて、「助けてくれ」と言うとか、日本ではそういうイメージを持つ人が多い。でも、行ってみると、全然そんな姿はなく、みんなの笑顔が印象的でした。

海南 ツバルに滞在している間毎日、あんなに美しい夕日のことを私たちはどうして忘れていたのかと思っていました。気候変動と直接関係ないんですが。

枝廣 でも、私、それは気候変動を始め、環境問題の根っこだと思う。私たちがほんとに美しいものに足をとめる余裕がなくなっていることが、環境問題を生み出していますよね。

 ツバルは、流れている時間も違うし、人々が大事にしているものも違う。漁に行って魚をとってくると、親戚とか近所に分けてしまって、自分のところはちょっとしか残らない。

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海南 島が小さいせいもありますが、幸せの意味が違うんですよね。

枝廣 それを伝えるのがすごく難しい。ツバルの人は幸せなんだと言った瞬間に、「じゃあ、気にしなくていいのね」とか、「温暖化で沈んでるわけじゃないのね」と急に興味を失う人たちが結構いるんですよね。

感じることにつながる作品にしたかった

枝廣 今回の映画では、見る人に何を感じてほしいと思われていますか。


映画「ビューティフル アイランズ」監督 海南友子さん

海南 枝廣さんのTwitterも含め、気候変動や温暖化に関する情報はいくらでもあります。そこに欠けているのは、心に響くこと、感じることだと思ったんです。大学生の頃、植林の目的でインドネシアに木を植えに行ったことがあります。ところが、翌年に行ったら、育て方が悪かったせいでみんな枯れていたんです。たった1本の木を育てるのにこんなに大変なんだと思った経験から、紙の消費のこと、再生紙のこと、あるいは、自分たちの大量消費社会のことを考えるようになりました。

 日本人全員がツバル行くのは不可能です。だからこそ、何か感じることにつながる作品を作ることが自分の仕事だと思いました。2時間近い作品ですが、1カットで結構ですので、この風景はすてきだなとか、この歌声はすてきだな、あるいは、ベネチアのこういう暮らしはいいな、と感じてもらえる作品にしかったんです。もし心が少しでも揺れたら、あとの解決方法は実はかなり提示されていて、やるか、やらないかになると思うんですよ。

 だから、あえてナレーションとかBGMもなし。こう感じてくださいという情報は今回は入れませんでした。入れたほうがわかりやすいかもしれません。だけど、その風景をどう感じるかは、あなたの感覚が試されていますよ、と。何かつまらない南国のただの平和の景色と見えるのか、それとも、そうじゃなく思えるか。それも見てくださる方次第というつもりで作ったんです。

枝廣 受け取る人によって感じ方は違うんでしょうけど、基本的にはご自分の心が動いた場を撮っていかれたわけですね。

海南 そうですね。まず最初にツバルとベネチアとシシマレフの3つの島を回り、「ああ、ここはやっぱり美しいな」と思った場所を、どうしたらより美しく撮れるか考えました。「ビューティフル アイランズ」というタイトルは、消えゆく美しいものにいとおしい気持ちを寄せてもらいたいという意味をこめました。

 ツバルの人のライフスタイルにも心を打たれました。ヤシの木は本当に全部使っているんですよね。ヤシの木に登って取って来て、ドリンクとして飲む。ある意味、缶ジュースみたいなものですよね。中のものを全部食べて、食べ終わった後は燃料になって。むだにするものは何もないんですよね。それを見ていると、日本の少し前までの暮らしと、きっと何か共通性があるんじゃないかなと思いました。


環境ジャーナリスト 枝廣淳子さん

枝廣 自然の循環の中に生かされているという感覚ですね。実際には、ツバルへ行くと、ごみが山積みになっているところもある。でも、かわいそうなツバルではない。かわいそうって言ってしまうと、自分はこっちに置いて、向こうをかわいそうと言うわけです。温暖化の問題は、自分をこっちに置けないはずなのに、みんな置いてしまっているんですよね。

海南 ツバルだけでなく、アラスカのシシマレフも同じ。大量消費をしているアメリカの一部でありながら、自然に近い暮らしをしている方たちのところが最初に被害に遭うというのは象徴的です。私たちはこちら側ではなくて、彼らとつながった存在のはずです。

 シシマレフは、目に見えて、消えつつあります。現地の方と話したとき、「海の果てに何か浮いているところが見えるだろう」と聞かれ、「見える、見える」と答えました。その方によると、そこは最初の堤防だと言うんです。もともと10数年前までは陸が続いていて、今、立っている場所は3つ目の堤防なんです。

 堤防のすぐ近くに家が建っている。「2つ消えた堤防の間にも家があったの?」と聞くと、「もちろんあった」と。土地ごと全部、家ごと全部消えてしまったわけです。

 シシマレフは永久凍土の島なので、メタンガスが大量に放出されていて、悪いスパイラルにはまっているという感じがします。

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(2010年7月9日)