スペシャルリポート

牧畜国が抱える地球温暖化問題

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見渡す限り牧草地

 ニュージーランドと聞けば、長閑な放牧風景を連想される方が多いでしょう。それもそのはず、日本の北海道を除いたほどの国土面積に、人口4百万、牛は人の2倍の1千万、羊に至っては10倍の4千万。放牧可能な土地という土地は、急斜面でも山の天辺でも全部牧場、国土の3分の2が牧場なのですから。

完全牧草飼育は健康で経済的

 ニュージーランドは元々自然草地などなく、山がちな国土は深い密林で覆われていましたが、穏やかな海洋性気候風土が、一年中放牧可能とわかってから、開拓民によって次々と牧場が作られ、牧草の種が蒔かれた人為の牧草地です。

 家畜が自由に動き回り好きなだけ草を食べる完全牧草飼育は、自然の理にかない健康そのもの、最高の乳や肉を生み出すばかりか、低費用で経済的です。それは、

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  1. 牧草以外の飼料が要りません。
  2. 餌を与える労力が省けます。
  3. 畜舎が不要で、建築用地や費用が要りません。
  4. 草刈りや干し草作りの労力と干し草の保存場所が要りません。
  5. 糞尿処理作業や処理場が必要でないため、環境対策費や労働費が大幅に抑えられます。

 など数々の経営上の利点を生んで、低費用の牧畜が実現し、1920年代にはもう牧畜王国を謳歌していました。そして今もなお、生産する生乳の96%以上を輸出し、輸出高では羊肉世界一、牛肉世界五位、牧畜業はニュージーランド経済の重要な柱です。

他国と違う温室効果ガス排出量

 ところが、近年この牧畜農業が深刻な問題になっているのです。AgResearch (ニュージーランド草地農業研究所)によると、ニュージーランドの温室効果ガス排出量のガス別構成は、二酸化炭素40%、メタン44%、亜酸化窒素14%です。このメタンと亜酸化窒素の大部分は家畜が放出し、国全体から排出される温室効果ガスの半分以上を占めています。しかも同じ重量の二酸化炭素に比べ、メタンは23倍、亜酸化窒素は310倍も、温暖化に影響を与えているそうです。

 ニュージーランドは京都議定書に調印して、温室効果ガスを1990年の排出水準までに消滅することを約束しました。しかし、家畜が出すメタンを消滅するのに適した方法や技術は、まだありません。

げっぷ・おなら税

 そこで政府は、2003年、年間800万ニュージーランド・ドル(約6億円)の予算で家畜の排出ガス削減研究に取り組むことに決め、その費用捻出のため、畜産農家に飼育数に応じて課税する案を出しました。げっぷ・おなら税です。牛は年間1頭当り60~70kg、羊は0.3kg、と家畜によってメタン排出量が違うため、牛は72セント(約50円)、羊は9セント(約6円)、平均的農家の負担は年3百ドル(約2万1千円)となります。

 それに怒った農民連合が、全国からトラクターや牛と共に、首都ウェリントンに押し寄せて、デモ行進しました。集めた6万4千の課税反対の署名を国会に提出し、挙句には、議事堂にトラクターを乗り入れ、牛を連れ込もうとした様子も、テレビや新聞に大きく報道されました。

 結局法案は否決となりましたが、国の経済を支える家畜のことは重大事です。研究資金は、国の財政補助と乳業・食肉産業などが後援するAgResearch (ニュージーランド草地農業研究所)を中心に、牧畜温室効果ガス研究コンソーシアムなど世界中の研究機関と連携して続けられています。

げっぷやおならがなぜ悪い

 そもそも家畜のげっぷがなぜ深刻かといえば、牛や羊は反芻動物だからです。一度飲み込んだ草を再び口に戻してかみ砕く反芻行動を行う草食動物は、4つの胃をもち、第1胃に微生物が生息し、草の繊維を発酵し吸収されやすい形に分解して、体内に取り込んで栄養源としています。

 この時に発生するのが二酸化炭素やメタンなどです。これらのガスは、げっぷやおならとして大気中に放出されます。また、メタンは家畜の排泄物からも生成され、排泄物からは同様に二酸化炭素も発生します。体重が羊の約10倍の牛が一番大きなメタン発生源としての問題となっています。

 たかが牛のげっぷと言ってはいられません。国が家畜のげっぷの責任を負わなければならなくなったのです。青空の下、日がな一日瑞々しい草を食み、もう一度胃から戻してモゴモゴ味わい、ゲップ、ブーを繰り返している牛の健康な営み、この長閑な営みでとびきり美味しい乳と肉を生み出すのが深刻な問題とは、あまりにも皮肉です。

げっぷの出ない草

 今、多くの研究者が家畜の消化器内でメタンをつくる微生物の抑制やメタン生成の少ない牧草の開発などによる排出ガスの削減研究に取り組んでいますが、隣国オーストラリアに生息するカンガルーは同じ草食動物でありながら、カンガルーの胃の中には特殊なバクテリアが常在しているため、おならにメタンが含まれていないそうです。

 オーストラリアの研究者は、このバクテリアを牛や羊に移植する方法を研究しています。しかし、バクテリアを分離するのに数年はかかる上、移植方法も研究しなければなりません。

 日本の大学では、アミノ酸などの成分を飼料に配合して牛に与え、げっぷを無害化する手法を開発したそうです。また別の大学と企業が、メタンの量を抑える天然素材を発見し、飼料添加剤として発売する計画だ、というニュースも耳にしました。

 しかし、ニュージーランドではこの手法は使えません。完全牧草飼育で穀物などの飼料飼育ではないからです。牧畜農家では、牧草の種はライ草や「かもがや」といったイネ科の種を3、4種、白クローバーや赤クローバーなど豆科の種を2、3種、合計5、6種の種を混ぜて蒔くそうです。

牛が悪いわけではないのに・・・

 豆科の草を食べるとげっぷの出が少ないことは以前から知られていますが、クローバーなど豆科の草は栄養価が高く家畜が太りすぎないよう、栄養価の低いイネ科の草を与えてバランスを取る必要があるそうです。

 また、クローバーなどは生命力が強く蔓延って地面を湿気させてしまい、逆にイネ科の草ばかりだと乾燥して砂漠化してしまうので、牧草地にはイネ科と豆科の草のバランスが必要なのだそうです。

 放牧牛は舎飼牛に比べて、草を食べている時間が長いので、その分反芻時間が短いという側面もあるといいます。

 げっぷの出ない牧草は研究所の実験段階で、実際の牧場にはまだ登場していません。1日も早くと願う一方、それを食べた牛の乳や肉にどのような変化が起きるのかも心配です。

 国連食糧農業機関(FAO)は「牛は環境への最大脅威」と報告していますが、そうしたのは人間、牛が悪いのではありません。

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(2009年11月13日)
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