スペシャルリポート

自然の力を生かしたペルーの循環型農業

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首都リマの野菜供給地、ワラル

 ペルーの首都リマからバスに揺られること約2時間、太平洋にほど近い町ワラルは、温暖な気候と豊富な水のおかげで農業が盛んなところです。首都リマの人口を支える主要な野菜供給地の一つとしても知られています。

 夏休みのある日、友人の家族と共にワラルに住むバリーガさん一家を訪ねました。小規模ながら農業と畜産を合わせて営んでいるバリーガさんは、町の中心から10kmほど離れた緑豊かな農業地区に住んでいます。家に着くとまずはバリーガ家の犬たちがお出迎え!動物好きの子供たちはもう大はしゃぎです。こうしてワラルでの1日が始まりました。

おいしい牛乳は、おいしい飼料から

 まずは搾乳の様子を見せてもらいました。ここでは20頭ほどの乳牛を飼育し、大手乳製品メーカーに納めています。その場で搾りたての生乳の美味しさを味わう事ができるのは、何といっても酪農家の特権でしょう。一頭ずつ丁寧に搾られた生乳はほのかに温かく、真っ白な泡はきめ細やかなクリームのようです。

 乳牛たちのエサは、カモーテというペルーの甘いサツマイモの蔓や葉、トウモロコシなどバリーガさんの畑で採れるものです。市販の配合飼料は栄養豊富な反面、抗生物質や防腐剤、ホルモン剤などの化学物質が含まれており、遺伝子組換え作物使用の恐れがありますが、自前の飼料ならその心配はありません。わざわざ土地を開墾して牧草を植えたりするのではなく、作物の蔓や余ったトウモロコシを利用するので、無駄もないそうです。

 モリモリと蔓を食べる乳牛たちを世話しながら「カモーテの蔓は甘いから、牛も大好きなのよ」とバリーガさんが教えてくれました。子供たちが恐る恐る蔓を差しだすと、その小さな手まで食べてしまいそうな勢いでぺろりと絡め取ってしまいます。

 甘いカモーテが大好きな牛たちの出す生乳は、やはりほんのりと甘いのだそうです。そしてこの生乳から作った自家製ヨーグルトはコクがあって酸味も柔らかく、思わずお代りしてしまうおいしさでした。

ペットかご馳走か、ペルーのクイ

 今度はクイ(テンジクネズミ)の飼育小屋へ。レンガの囲みの中で、トウモロコシを食べながら「クイクイ」と鳴く姿は本当に愛らしく、子どもたちは「かわいい!飼いたい!」と必死におねだり。

 しかしクイはアンデスを中心にペルーやボリビア、エクアドルで飼育されている食用モルモットです。子供にとってクイはペットですが、大人にとっては家畜。

「クイは生まれてだいたい2ヵ月半で食べられるの」
「1kgくらいのがちょうど美味しいのよ。こっちのはまだ500gくらいね」

 カリッと揚げたクイの身はとてもおいしいことを知っている私は、子どもたちに聞こえないことを祈りながらも、バリーガさんたちの会話に耳を傾けていました。

いろんな作物が次々に現れる不思議な畑

 夕方、子どもたちと一緒に畑を見に行きました。

 草いきれの中を進んで行くと、突然現れたのはたわわに実った大きなバナナ!草むらだと思っていたところは、どうやらすでに畑だったようです。ここにはありとあらゆる作物がそれぞれ調和を保ちながら共存していて、日本の整然とした畑とはまったく違いました。

 トウモロコシ畑の間には、ルクマの木がありました。尖ったお尻が特徴のこの果実は、古代プレインカの時代から食べられてきたペルー原産の果物で、最近では日本でも南米の食材を扱う店や通販で購入できるようです。

 その周りには前述のカモーテを始めカボチャ、キュウリ、キャッサバがあり、日当たりのよい斜面には、どっしりとしたアボカドがまるでクリスマスツリーの飾りのように垂れ下がっていました。

 世界三大美果の一つであるチリモヤとアボカドの枝が絡み合って、どちらの木か分からないところもあります。ラテンらしく大らかでよいのですが、ここまで自由に植えられた畑は見たことがありませんでした。

 柿やマンサーナ・フジ(ふじりんご)、温州ミカンに似たマンダリナもありました。その昔、日系移民たちが持ち込んだこれらの果物は、今ではペルーでもすっかりお馴染みです。

 周りの雑草の勢いが目立ちましたが、バリーガ家の皆さんはさほど気にしていない様子。その他クリやピーカンナッツなど木の実類もあり、まるでおもちゃ箱をひっくり返したようななんとも賑やかな畑でした。

自然に即したエコ農業

 バリーガさんの家では、家畜の糞を有機肥料として畑に捲き、作物の蔓や余った野菜を家畜の餌に回す無駄のない農業を営んでいました。この農法は「循環型農業」と呼ばれるものです。

 肥えた土壌で元気な作物を育てることができる循環型農業は、化学肥料や農薬の使用を減らすことができる自然環境にやさしい農法として、欧米をはじめ日本でも注目されています。

 またトウモロコシやカボチャ、キュウリなど多品目を栽培することで、それぞれがコンパニオンプランツ(共栄作物)として作用し、自然に害虫被害を減らすことにも繋がっていました。

 バリーガさんは自分が特別なことをしているとは思っていません。糞や余ったものを利用し、収穫時期が重ならないよう様々な作物を植え、元気に育つよう努めているだけです。その気負わない自然な姿勢こそが、環境への負荷を減らすエコ農業を支えているのだと思いました。


(2009年9月4日)
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