スペシャルリポート

スイス、妊婦のメモリアルギプス

世界に1つだけの“お腹”を残したい

 妊娠中の大きいお腹を写真に残す女性は多いでしょう。でも写真だと、そのお腹を、立体的に、実際に触れられる形で残しておくことはできません。それを可能にしたのが、このメモリアルギプスです。

 ギプスの取り方はとても簡単です。材料は、(1)ワセリン(石油からとれる透明なロウ)クリーム、(2)ホイル、(3)特殊メークにも用いられている医療用のギプス包帯(幅15センチ、長さ3メートル)、(4)水です。

 まず、妊婦は上半身裸になります。そして胸からお腹にかけて、クリームを塗ります。下半身は服が汚れるのを防ぐために、ホイルで覆います。自然な形に残せるように、妊婦は立ったままの姿勢でいます。

 いよいよ包帯をのせていきます。使用量は約3本です。包帯は少し硬いので、水に濡らして柔らかくしてのせます。包帯が固まり始める前に、急いでかつ丁寧に作業するのがコツです。すべてのせたら、待つこと約20分。体を覆った包帯は簡単にはずれて、体の曲線をそのまま表現した原型の出来上がりです。

 オーダーメイドのデザイン

 この原型は、まだ壊れやすい状態です。そこで、内側と外側の両方から石膏を流して頑丈にします。石膏が固まったら表面を削って滑らかにします。ここに自分の好きな絵画や工作を施します。花柄、幾何学模様、天使、手形を押すなど、実に様々です。また、表面を削る前のざらざらした素のギプスを好む人もいます。

 この「胸+お腹の原型」の値段は70フラン(約7000円)です。原型の形はほかにもあります。首と肩も入れたり、腕と手を入れたり、お腹の部分だけにしたりと自由に選べます。これらの原型に、石膏料金とデザイン料金がプラスされます。

 凝ったデザインにしたい人も多く、500〜600フラン(約5〜6万円)になることは普通です。型を取る時期は8ヶ月以降が適していますが、ほとんどの妊婦が臨月にするそうです。作品の受け取りは産後になります。

手軽な「セルフ・キット」も

 メモリアルギプス制作を仕事にしているのは、チューリヒ近郊在住のベアトリス・ヘグナーさんです。ご自宅の隣にアトリエを構えています。

 ベアトリスさんは3人のお子さんのママです。趣味の創作には、結婚退職後にたくさん時間が取れるようになりました。お腹のギプスは、臨月の友人に頼まれて初めて取りました。その試作品が思いのほか上手くいき、本格的に仕事にするようになったのです。メディアからの出演依頼も続いて、ヘグナーさんのメモリアルギプスは大人気になりました。

 ベアトリスさんは、ワセリンクリームとホイルとギプス包帯をセットにした「セルフ・キット」も販売しています(約4800円)。こちらも大好評です。

 記事でメモリアルギプスのことを知って、3時間もかけてアトリエにやってきた妊婦がいたため、このキットの販売を思いつきました。アトリエまで行けない人や自分で手軽に試してみたい人には最適です。アトリエまで行けないけれどやはりベアトリスさんに、という場合は自宅まで来てもらうこともできます。

芸術作品として楽しむ 〜 出産報告カードに載せたり、器として使う人も

 記念に残すという理由に加えて、メモリアルギプスを作るもう1つの理由は、インテリアのアクセサリーにすることです。ベアトリスさんによれば、「ママたちの多くは、子ども部屋や寝室に飾っているそうです。中には堂々と居間に飾る人もいます」。

 少子化のスイスでも子どもは1人という家庭は多く、たいていは妊娠の記念として1個作るママたちが多いそうです。でも、2人目、3人目とそれぞれの妊娠時にベアトリスさんのところに来る女性も時折います。ベアトリスさんご自身は、第3子を妊娠したときにギプスを作りました(そのギプスは、写真中で抱えています)。

 スイスでは出産報告やはりカードです。赤ちゃんの写真を載せる人ももちろんいますし、オリジナルの絵などを描く人もいます。

 そして、メモリアルギプスもカードの題材になります。美しいメモリアルギプスの写真を張ったカードは、とてもお洒落です。誕生の主役は赤ちゃんたちですが、妊娠・出産は一大仕事です。メモリアルギプスをあしらったカードは、“ママたちも頑張りましたと”いう報告のようにも思えます。 

 メモリアルギプスの使い道は、ほかにもあります。なんと胸のないお腹だけの部分で、素敵な「器」が作れるのです。ベアトリスさんのご自宅にも、ご自身のお腹を型にとった器が飾ってありました。まさか、お腹のギプスだとはまったく気がつきませんでした。

妊婦姿は素晴らしい

 ベアトリスさんは「たくさんの妊婦と知り合えることがとても楽しい」と話します。型を取る作業の間は、妊婦とおしゃべりに興じます。テーマはもちろん、妊娠のこと、子育てのことです。3人のママであるベアトリスさんは経験豊富ですから、新米ママになる女性はきっと教えてもらいたいことがあるでしょう。

 そしてもう1つの喜びは、生まれてきた赤ちゃんと知り合えることです。作品の受け取りに、ママたちは赤ちゃんを連れてくるのです。

 妊婦のすべてが、大きなお腹を好ましいとは思いません。しかし、ベアトリスさんは妊婦姿は素晴らしいと思っています。妊婦のメモリアルギプスはこれからも増え続け、スイスの家庭に飾られていくことでしょう。

 岩澤里美さんのホームページ「スイス イードゥリな日々」:http://slasuisse.exblog.jp/

 ギプスの写真提供:http://www.gipsatelier.ch/


(2008年3月28日)