
香港人にとってのお正月と言えば、旧正月。西暦新年に較べ、その存在感は圧倒的です。旧暦と西暦との関係で、香港のお正月は毎年、西暦カレンダーでの日付が変わります。2007年は、2月18日から20日が「春節」と呼ばれるお正月となります。 旧正月の行事は、大晦日から始まります。新しい年が良い一年になるように、台所に赤い紙をつけた縁起の良い野菜が一束置かれます。さすが“食在香港”と言われるだけあり、福は台所から来ると信じている人は多いようです。 |
| 新年のしきたりの多くは、広東語の音による語呂合わせに由来しています。例えばレタス、「生菜(サーンチョイ)」は、「財産を産む」という広東語と同じ発音になるため、おめでたい新年の宴席には欠かせない野菜です。 人参の色の「好紅(ホウホン)=赤い」は「人気や運気が上昇する」という言葉と、中国セロリ「斤菜(カンチョイ)」は、「勤勉になるように」という言葉と同じ発音なのです。 家族で迎える大晦日の夕食は、「団年飯(ツンニンファン)」と呼ばれ、家族全員が一堂に介して、その年に起きた事を振り返り食卓を囲むのがしきたりです。 この時の、おかずは「余り」とか「豊富」とかという意味と同じ発音の魚料理がメインです。徹頭徹尾の言葉通り、一尾まるごと食卓に出します。 |
| 広東語で「洋服をかける」という言葉は、「死ぬ」という発音に似ているため、洗濯は晦日にすませ、家の中に洋服を干しておいてはいけません。掃除や洗濯、洗髪も運が流れるので、お正月の前に、手早くすませます。 元旦の日には、中国のお年玉「利是(ライシ)」が未婚者に配られます。金額は500円程度と少ないのですが、子供はもちろん、成人しても未婚であればお年玉がもらえるから嬉しい習慣です。 正月2日は全てが始まる大切な日とされ、「開年飯(ホイニンファーン)」という食卓を家族で囲みます。 広東語の音を踏んで、縁起の良い魚や、鶏肉、エビを食べますが、ここでの主役は、レタスや湯葉、しいたけ、はるさめ、人参など8種類以上の具材を「南乳(ピンク色した少し甘めの発酵豆腐調味料)」で煮た精進料理。 これは、大晦日に台所に置いた野菜を使って、新年の食卓に必ず用意されるおかずです。 新年に殺生をせず(肉を食べず)、善行(精進料理を食べる)をする、という意味が込められているので、開年飯の最初のひと箸は、必ず、この野菜煮から食べなければいけません。新年に殺生をせず、善行をするという意味が込められているので、間違って肉を先につまもうものなら、おばあちゃんに一喝されてしまいます。 「開年飯」を食べたあとは、洗濯、掃除、洗髪、なんでもござれ、新年の日常生活が始まるのです。 |
生温い湿った空気が身体中にまといつくような香港の初夏。端午の節句と聞くと、日本人は、子供の日を思い出す人が多いと思いますが、香港では、この日は、国を憂いた英雄・屈原の死をしのぶ日とされています。 故国の行く末に失望した賢人、屈原は、汨羅(べきら)という川に身を投げてしまいました。悲しんだ村人たちは、船を出して、魚に屈原の亡がらが食べられないよう銅鑼を鳴らし、えさの替わりに粽(ちまき)を河に投げ入れたと伝えられています。 その日が中国の年中行事「端午節」になり,へさきに竜の首飾りをつけた竜船が競争するドラゴンレース(龍舟比賽)が生まれました。 香港の粽は、サイズも大きくて、笹の葉に包まれたもち米の中には豚肉や椎茸、ハムなどの具材が入っていますが、なかでも面白いのが、塩玉子の黄身。これは、「鹹蛋(シェンタン)」と呼ばれ、アヒルの卵を2~3ヵ月塩漬けにしたもの。香港ではポピュラーな食材です。 おかずとごはんが一緒に入っていて、手軽に満腹になる粽は、香港人にとっては、いわば“おにぎり”のようなもの。 この時期になると市場には粽を包む笹の葉が売り出され、お母さん達が笹の葉を手に帰宅する光景がよく見られます。家庭で作られる粽は、大きさや具など、各家庭の味がそれぞれにあって、香港版おふくろの味の象徴になっています。 |
「中秋節」は、月餅を食べ、ランタンと呼ばれる提灯を持って月見をするのが習慣です。月餅は、日本では中華街のおみやげ物として年中売られていますが、香港では基本的に、中秋の季節にしか売られません。伝統的な月餅は、蓮の実あんにアヒルの卵の黄身の塩漬けが入っており、こってりと甘いのが特徴です。 この日は、月餅と里芋やザボンを盛り合わせたものを、祖先に奉ったあと、早めに夕食を済ませてから、月見に出かけます。ランタンには様々な形があり、昔ながらの兎や果物の形に、最近はアニメキャラをかたどったビニール製も売られていて、お月見の時期には、文房具店や仏具店の店先に、さまざまなアニメキャラクターのランタンが吊るされているのを目にします。 中秋節は、香港のイベントの中でも、最も幻想的で美しいことで知られ、市内の公園などでは、大きなオブジェに明かりを灯して、お月見イベントが開催されます。中秋節は、「ランタン・セレブレーション」とも言われ、龍や天女、干支などを形どったランタンが明かりに照らされる様は幻想的で美しく、一見の価値があります。 |
一年を集約する意味で、香港人が大切にするのが「冬至」です。厳しい冬を乗り越え、春に向けて頑張ることを祝う節句です。1年で一番長い夜を祝う冬至は、伝統的には農家や漁師が寒い季節に備えて食糧を集める日だったそうです。夜が1年で1番長いこの日、これから昼が長くなっていく旧暦の起点ということもあり、これからの農作業に精を出してもらうために、時の統治者が、農民にゆっくりと食事を取らせたのが始まりとされています。 それがめぐりめぐって、香港では新年の「開年飯」同様に、大事なファミリーディナーの日として、大切にされています。 厳しい冬の日に家族で食卓を囲み、家族の絆を確認しあいます。食事のメインは調理された鶏一羽。この寒さに鶏を食べられることを皆で喜び合い、絆を確認しあうという意味があります。 香港の会社のほとんどが、4時頃には営業終了となり、仕事が終わるとみんな帰路を急ぎます。冬至当日に家族全員が集合できない場合は、冬至前の週末に、レストランで食事をするなど、家族そろって食卓を囲む習慣は大切に受け継がれています。 立ち並ぶ近代ビルに通勤し、暮す香港人と、昔ながらの中国行事を伝えてゆく香港人。香港の暮らしには、二つの素顔があるのです。 (文/ジェニー仲村) |