
原発事故以来、私たちの生活は大きく様変わりしてしまいました。警戒区域内から避難している方たちはもちろんのこと、東日本に住んでいる人々が放射性物質の汚染について考えない日はありません。スーパーで買い物をする度に産地の表示が気になりますし、食品の規制基準値が定められているけれど、本当にこの基準が守られているのか?不安を感じます。
実際の汚染はどうなのか、心配が必要なレベルなのか、生活する上で(特に食生活で)気を付けなればならないことは何か、など、確かな情報が欲しいと思う毎日です。現在、日本の原発事故に関するスウェーデンでの報道はどのようになっていますか?
先日、スウェーデンの放射線安全庁(Swedish Radiation Safety Authority)の危機対策課のヤン・ヨーハンソン(Jan Johansson)さんにインタビューする機会がありました。彼は、昨年11月にEUの調査団と一緒に福島第一原子力発電所の現状調査に行ったばかりです。インタビューでのやり取りの概要をお伝えします。
高見(以下、高):実際の東日本の汚染がどのようになっているのですか?
ヤン・ヨーハンソン(以下、ヨ):EU調査団、スウェーデン大使館の人たちと東京から福島まで車で移動した時、ずっと自分たちが持って行った放射線の計測機器で土壌の汚染度を測定しました。そして、そのデータと日本の政府が公表している汚染マップと比較しましたが、数値は一致していました。総括的な土壌の汚染マップは現実と一致して正しいという結論です。
汚染の問題は、警戒区域および計画的避難区域の自治体に集中しており、これから自治体が除染プランを立てる段階に入っています。今後の大きな課題は、除染した後の放射性廃棄物をどこにどう保管し最終的に処理するかでしょう。
高:福島の警戒区域および計画的避難区域において、どこまでの汚染程度であれば除染をすることができるとお考えですか?
ヨ:20~50ミリシーベルトまでの場所は除染をすれば住めますが、50ミリシーベル以上の場所は、世界の国で除染をした経験がないレベルなので分かりません。
高:日本政府の警戒区域および計画的避難区域の判断基準は、妥当だったと思いますか?
ヨ:妥当だったでしょう。基準値は、国際的な基準値で判断されているので我々も同じ対策をしたと思います。ただ、原発事故直後の対策として大きく異なるのは、スウェーデンでは、原発から12~15km以内の住民に、事故の警報があるとすぐに服用してもらうためにヨウ素を常置してもらっていることです。ヨウ素の医療的な副作用の問題は少ないと判断をしているためで、服用の方法など情報も提供をしています。
高:東京は、住んでいる人たちにとって心配しなければいけない汚染レベルと考えますか?
ヨ:土壌の汚染は、東京に住んでいる人たちが心配しなければならないレベルではありません。もちろん場所によってホットスポットがありますが、平均値は、ストックホルム市の通常の土壌のレベルです。スウェーデンの地殻にはウランが多いため、土壌からの放射線量は国際的に見ると比較的高いのです。ですから、東京で土壌からの放射線での被ばくを心配する必要はないでしょう。
高:日本で生活する上で(特に食生活で)気を付けなればならないことは何ですか?
ヨ:日本の課題は、食品の放射能汚染のコントロールプログラムが完璧に機能するようになることでしょう。昨年、牛肉やお米で放射性物質汚染の問題がありましたが、食品のコントロールが完璧に機能するには時間がかかることのあらわれです。
スウェーデンにおいてもチェルノブイリ原発事故後のコントロールに時間がかかりました。福島原発後、すでにかなり時間がたっています。そろそろ、どの食品が放射性物質を吸収しやすいか、特に汚染されている食品は何か、行政当局が把握しているはずです。それを、国民に発表する必要があります。
スウェーデンでは、地衣(ちい。地面や木に生えてるコケのようなもの)が放射性物質をよく吸収するため、地衣を食べるトナカイの放射性物質が多くなりました。キノコも比較的放射性物質を吸収しやすいですが、そうでないキノコもあります。魚についても同じです。ある湖では、チェルノブイリ原発事故後25年たっても放射性物質の含量が高く、食べられない魚があります。
日本も、食品の放射性物質の濃度の測定はされており、ウエブで公開されているので見ることはできます。しかし、データを見ただけでどの食品がより汚染されているのかを判断するのは、専門家の私でもさえも理解しにくいです。まして、一般の人では分かりにくいでしょう。もっと分かりやすい情報提供が必要です。
高:日本の基準値をスウェーデンと比較してどう思いますか?
ヨ:日本もスウェーデンもEUも、食品を通じて受ける内部被ばく線量の増加分が年間1ミリシーベルトを超えないようにすることを目標にしています。そこから食品の基準値を算出しますが、どれだけ安全性に余裕を持たせるのかが、判断の分かれ目です。
日本は、今度、500ベクレルから100ベクレルに基準値を引き下げを検討していると聞きます。スウェーデンは、食品によって300ベクレルと1500ベクレルという基準値があり、他の国にも別の基準値があります。基準がバラバラでは、一般の人が理解しにくく混乱します。世界の国が共通の基準値で合意ができないことは非常に残念です。
しかし、日本において、一般的な食品のコントロールシステムは機能しているはずです。安心できるかどうかは、消費者が信用するかどうかの問題でしょう。
原発事故後、国際的に容認されている1年目の年間の被ばく線量は、最高5ミリシーベルト。2年目から1ミリシーベルトになります。このような基準で管理されて市場に出た食品をOKと受け入れることができるかどうかということです。
重要なのは、自分でリスクを判断した上で行動ができることです。
スーパーで食品を調達する食生活なら、年間の内部被ばく線量が1ミリシーベルト内に収まります。
スウェーデンでは、ラップ人のようにトナカイの肉を主食としている民族や自分で狩猟や漁獲したものを主に食べている人たちは、汚染度の高い食品を摂取することになります。行政はそのグル―プの人たちだけに向けたリスクについて、情報を提供しました。リスクが正しく理解できれば、食生活を変えるかどうかの行動の判断を決めることができるでしょう。
日本人は、魚の摂取量が一般的に多いので、どの魚が汚染されやすいかなど、情報をできるだけオープンにすることが重要でしょう。もし、情報が不確かでも、不確かであることをオープンにすれば、情報をもらった側がそれを食べるか食べないかの判断できます。
原発事故がない時の放射性物質を含む食品の基準値は非常に低いのですが、事故時に基準値が上がります。それでも安全だと説明を簡略化すると、大切なことが伝わらなくなるでしょう。
危機的な状況の中で、不確かなことをコミュニケーションすることは難しく、正しい情報とはなにかというと難しいです。しかし、100%安全ということはありえません。小さいリスクもきちんと情報として提供することで、国民が自分で行動を判断でき、信頼も得られます。
以上がスウェーデンの放射線安全庁の専門家の答えでした。参考になれば幸いです。
チェルノブイリ事故の影響でストックホルムの北にあるイェーヴレ市は、汚染度が高かったのですが、住宅地の除染はしませんでした。その代わり、農地や農業生産の過程において除染をし、農業生産物の保護に力を入れました。そのお陰で、食品を基準値以下に抑え、国民が食品を通じて受ける内部被ばく線量を1ミリシーベルト以下に抑えることに成功をしています。
そのように原発事故が起きたらどうするべきか、農業生産における汚染対策をどのようにしたらよいか、についての実践マニュアルのような報告書が2002年に出版されました。私は、この報告書がきっと今の日本に参考になるだろうと思い、半年前に翻訳に取り組みました。そして、ついに完成しました。ご興味を持たれましたらぜひご一読ください。

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