
日本では基本的に親の面倒は子どもがみるという考えがあり、親に介護が必要になったら、同居して介護するのが望ましいと考えられています。もし、環境が整わない場合、やむを得ず親を介護施設へ入れることになり、子どもとしてはやるせない気持ちになります。
世代によって子どもとの同居や家族の介護に対する意識が変わってきていますが、一足飛びにスウェーデンのようにシステム化することは難しいと思います。政府の問題解決の遅れもありますが、スウェーデンとは異なる日本の家族観が影響すると思います。
私自身は、親が私の介護を望んでいるので、できる限りのことをしようと思っています。ただ、私が介護を必要とする時には、システムが整い、子どもには仕事ややりたい事をあきらめないで済むような状態になっていて欲しいと思います。
それには自立支援を基本とした取り組みが必要ですし、「自立が人権」との意識改革が必要だと思います。高見さんご自身は、スウェーデンのシステムと日本の現状を比較してどう思われますか? また、現時点でスウェーデンのシステムで問題点があれば教えて下さい。
スウェーデンでは、高齢者に対するケアの内容は、家庭の経済的な状況によって決まるのではなく、ケアの必要性で決まるシステムになっています。このシステムは非常に理想的で、今までうまく機能して、国際的にも評価されてきました。(詳しくは「親の面倒は誰が見る①」)
しかし、このシステムは税金で賄うので、国と自治体の財政がしっかり確保できていることが前提条件です。ですから、スウェーデンでは、できるだけ多くの人が就労し、税金を納め、公の財政を豊かにすることが重要視されているのです。ただし、不安要素があります。
例えば、2年前のアメリカの金融危機が世界を不況に陥れたように、スウェーデンも常にグローバル経済の影響を受けています。そして、工場は中国や東ヨーロッパ諸国に移転して、失業者が増えているため、福祉財政に影響を与えています。激動するグローバル経済の中で、国の経済を安定させることは並大抵ではないのが現状です。
また、高齢者福祉の支出が増加しています。日本と同様、高齢者の人口がどんどん増えているからです。そのため、今は、無料もしくは低額で受けられるサービスを、値上げか増税しないと、サービスの質が下がってしまうという危惧があります。
すでにその兆候が見えています。ストックホルム市が、今年、経費節約のために高齢者に配達するお弁当の供給会社を安い業者へ切り替えたのですが、そのお弁当の質が大きく下がり、かなりの批判を受けました。
また、介護士の仕事はきつくても給与が安いため、介護士のなり手が少ない自治体もあります。大都市は特にその傾向があります。そのため、スウェーデンの公用語が話せない移民の人たちをも雇用することになり、言葉や文化の差による支障も起きているようです。
このように、ケアの質の低下をどう抑えるかは大きな課題です。公のサービスに限界があることを察している国民は、不足分をカバーするために、民間の年金保険に入る人も増えています。
スウェーデンでは、ケアの質を高めるために、家族がもっと介護に関わる必要性があると思います。実際のケアをするというより、施設にもっと訪問して、介護士とのコミュニケーションを良くすることが大切です。
スウェーデンの保育園の質が高いのは、保護者が子どもの保育内容に対して関心が高く、保育園の活動に参画し、協力しているからです。高齢者介護も、それと同様に、家族が預けたままで安心せずに、施設の親のケアにもっと関心を持ち、いろいろ参画して協力する必要があると思います。
日本の家族は、スウェーデンよりもずっと深く高齢者の介護に関わっています。これは日本の特性なので、将来的に家族ではなく社会が介護を代行する時代を目指すとしても、その特性を活かしながら、家族への公的支援をもっと充実させる方向性で進むのがよいのではと思います。
まず、施設ではなく、家で介護をする家族、特に女性の現状を把握して、その人たちを支援するために、介護に関する専門的なノウハウや公的サービスの活用について、国や自治体が継続的に情報提供することが重要だと思います。どのような公的サービスを利用できるのかなど、知らない人たちも多いと思います。
子育ても、高齢者介護も、個人が抱える問題ではなく、社会が一緒に考え、支え合って良くしていく課題だという意識改革が必要です。日本ではこの問題を家族で抱え込む傾向がとても強いので、たとえ時間がかかっても、改革すべき重要なことだと思います。
特に、認知症を抱えるお年寄りの介護を、ノウハウを持たない娘やお嫁さんが1人でするのには限界があります。支援サービスを充実させるように国への働きかけが必要だと思います。
また、施設における介護の質の向上のためにも、公的な資金を増やす必要性はこれから益々大きくなると思います。
これらの高齢者福祉の課題をどう解決していくかを決定するのは、どちらの国においても最終的には政治家です。スウェーデンでは、国会議員の47%が女性、自治体も約50%が女性です。女性の声が政策に反映しやすい有利な状況にあります。
日本は、まだ国会議員が11%で、自治体にも女性議員が少ない状況で、不利だと思います。それゆえ、日本で、政治家がこの問題にもっと関心を持つようにするためには、もっと社会にオピニオンを作ることと、日本の介護の現状を特に理解している女性を政界に送ることが必要だと思います。
読者の方より下記のご質問がありましたので、お答えいたします。
「やり直しのきく人生③」に興味を持ち、スウェーデンへの大学留学を考えています。来年からユーロ圏以外の学生には学費をとるという話も聞いたのですが、実際のところはどうなのでしょうか?
【回答】
スウェーデン政府はEU以外の国からの学生には、2011年の秋学期より授業料をとることになりました。授業料は、各大学がコストをカバーする額を決めるそうです。
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